今度の島は夏島だとボンちゃんが言っていた。我らが船長は、船長でありながら「私の事はボンちゃんと呼んでくれて構わないのよーう!」とお許しをくれるような変わったお人だった。そんな事情を言わずとも、見るからに変わった人である事は明らかなんだけれど。
 暑いわ暑いわ、と衣装も変えずにボンちゃんは夏島に降り立った。バレエダンサーの格好のまま、照りつける太陽の下なんて、そりゃ暑いだろうなと思う。だけど、久しぶりの島にみんな気持ちが高ぶっていた。今度任された仕事は、大きな仕事になるけど、その分収穫も大きいものが見込めるんだって。だから、今回の島ではたくさん買い物していいんだってボンちゃんが言ってた。それを聞いた夜はみんなで大きな宴会をしたなあ。お金も大してあるわけじゃないのに、たくさん食べてたくさん踊りなさーい!とボンちゃんは上機嫌だったから、みんなもすごく楽しそうだった。ボンちゃんが踊るダンスはいつでも人を幸せにしてくれた。みんなが笑顔で、みんなが楽しい気持ちになるの。我らが船長は、すごい人だ。


「あらおなまえ、こんな所で何してるのよーう!」
「あ、ボンちゃん!」

 くるくると回りながらこちらへ向かってくるボンちゃん。なんて器用なんだ、と柔らかく吹く風を浴びながら私はにっこり笑った。夏島の、丘の上。普通に歩いてあがってきた私でも少し疲れてしまったのに、ボンちゃんはもしかして踊りながらあがってきたの?とんでもないと思うかもしれないけれど、それをやってのけてしまうのがボンちゃんだ。
 回るのをやめて、私の足元を見る。一面に咲く白い花。

「なあ〜にコレ?」
「これはね、ボンちゃん、野イチゴの花だよ。」
「えぇ!?あちし野イチゴ大好きなのよぅ!持って帰りましょうよーう!」
「よく見てよボンちゃん。まだお花しかなってないよ」
「あら、本当だわ!」

 あちしってば早とちりー!とボンちゃんはびっくり仰天していた。そんな船長にくすくす笑って、しゃがみこんで白い花に手をかざす。気がすんだのか、ボンちゃんも同じく横に並んで花にそっと手を添えた。

「触っても大丈夫なの?」
「うん、そっと、そっとね。多分咲き始めだと思うから。」
「野イチゴって、春のものだと思ってたけど違うのねーイ!」
「多分そうなんだけど、この場所はちょっと涼しいから、それでかな?」
「じゃあ、この島にとっては貴重なものなのかしらねェ」
「そうかもね、じゃあ尚更持って帰れないね」

 そう言うと、ボンちゃんはきょとんとした顔をして、すぐに呆れたようにため息をついた。「またあんたはそんな甘いことを言うの〜?甘甘よぅ。」これは何度もボンちゃんに言われている事だった。どうやら私は海賊としての冷酷さが足りないらしい。貴重なものならなおさら自分のものにしたい。これは海賊の性だって。

「ねえ、おなまえ、この花たち、ちょっとくらい連れて帰ってみましょうよぅ!」
「ボンちゃん、そんなに野イチゴ欲しいの?」
「この白い花あちしの服によく似ててかわいいじゃなァ〜い!」

 またボンちゃんはくるくると踊って見せた。回るボンちゃんに合わせて揺れる野イチゴの花が、ボンちゃんの白と同調していて確かにかわいかった。

「ボンちゃんも野イチゴもかわいいよ、でもだめだよ」
「あら!?どうしてェ〜?この島の人が悲しむから?そんなんじゃ納得できないわよ〜う!」

 またもや隣にしゃがみこんで睨んでくるボンちゃん。あのね、と私は口を開いた。この花と、この花と、この花。広がる花畑の中からいくつか適当な花を指差す。

「みんなね、ボンちゃん、多分、友達なんだよ」
「ダチィ〜?」
「そう、友達なんだよ。友達なのに無理やり離れ離れにされたら悲しいでしょ?」

 そう言って顔をのぞき見ると、ボンちゃんは考えるそぶりをしていた。多分、過去に出会ってそして離れ離れになったいろんな「ダチ」のことを思い出しているに違いない。泣いたり、笑ったり、過去を振り返っているだけなのに、ボンちゃんの表情はくるくる変わって、見ていてくすくす笑ってしまった。

「わかったわおなまえ。あちし、この花連れて帰らない」
「わかってくれてありがとう、ボンちゃん」
「その代わり、踊りましょう!」
「え?」

 ふわりと立ち上がったボンちゃんに、そのまま腕をひかれてつられて立ち上がる。野イチゴの花畑を踏んでしまわないように、注意して足元を見たら、ボンちゃんも器用に爪先で花たちを避けているのだと気付いた。ボンちゃんは海賊の船長だけど、とても優しい人で、もしかしたら今の話をしている間に、ボンちゃんにとってこの花たちも「ダチ」になってしまったのかもしれないな。だから、「連れて」帰りたくなったのかもしれない。私の手を引くボンちゃんはにっこり笑顔で楽しそう。私もたまらず幸せな気持ちになる。

「連れて帰れない代わりに、ここで一緒に踊るのよ〜う!」

 くるくるくるくる。私はダンスが得意じゃないけれど、ボンちゃんの綺麗なステップに合わせてこれでもかというくらい回ってみた。我らが船長はそれはそれは嬉しそう。私はいつまでもいつまでも、この人と踊っていられるよう強くなって、ボンちゃんとずっと旅をしていたいなと思った。揺れる野イチゴも、本当は連れて行ってほしかったかもしれないね、ボンちゃん。





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