今泉くんと仲良くなるにはどうしたらいいんだろう。
これは中高ずっと彼を見てきた私の疑問でありそして、課題でもある。仲良くならねばならないわけではないし、とりたて仲良くなりたいという気持ちがあるわけでもない。彼のことが好きだとか、気になるとかも違う。断じて違う。そもそも私が恋をしているのは3年の山田先輩である。サッカー部のキーパーで、背も高くてめちゃくちゃかっこいいしふと見せる笑顔なんかそんじょそこらの少年漫画の主人公より輝いてる。小野田くんより輝いてる。おいこら、誰だモブって言ったやつ。

話がだいぶ逸れたが、私が今泉くんと仲良くなるには(以下略)を考え出したきっかけは、中学2年の時彼と隣の席になった事からだった。自分で言うのも何だが、私はそこそこ社交的な方の人間だと思っている。対して今泉くんは内向的というか、他人にあまり興味を抱かないというか、要するに無口だ。とことん無口だ。最近じゃ透かし野郎と言われているみたいだけど、透けるほど無口ってことかな?ちょっと意味わかんない。
まあ、そんな無口な今泉くんだが、私は誰とも関わろうとしない彼と友達になってみようと試みた。せっかく隣の席になったのだから、と沢山話しかけてみた。今日の授業だるいのばっかだね、とか、課題やった?とか、昨日のテレビ見た?とか、そんな普通の話題がほとんどだったし、私が喋ってばっかりだったけど、彼も嫌そうな顔はしていなかったし、手応えを感じていた。しかし私の試みは席替え後一ヶ月で終わってしまう。いつものように話しかけると、一ヶ月間話しかけまくっていた私に対し、彼はあろうことか「お前の名前なんだっけ」と尋ねてきたのだ。おったまげた。心砕けた。もう仲良くならなくていいと思った。私のガラスのハート>>>>>>今泉くんと仲良くなることだった。私は私のもろく儚いメンタルを守る方が大事だった。名前くらい知っとけよ。結局引きつる顔しかできなかったあの日から、彼と関わることはなかったけれど、今泉くんと仲良くなるには(以下略)は未だに小さな疑問と課題として私の心に根を張っているのである。


「小野田くんはどうやって今泉くんと仲良くなったの?」
「へ、?」
「いつの間にか仲良いじゃん。やっぱり自転車?自転車があれば仲良くなれるの?自転車はツールなの?自転車万能説なの?」
「(万能説、、、?)き、きっかけは確かに自転車かなぁ、、、でも何回かお話するうちに今泉くんもだんだんお話してくれるようになって」
「(何回かお話するうちに、、だと、、、?)へ、へえ、でででもやっぱり自転車っていう共通の話題があるからなんだろうねやっぱりね私あの時自転車持ってなかったもんね仕方ないよね!!」
「えええ何?!みょうじさん何の事?!」

お昼ご飯を食べ終えて幸せそうに隣に座った小野田くん。彼は入学してすぐに永遠の課題である「今泉くんと仲良くなるには」を難なくクリアした超人である。スーパーサイヤ人である。今のところ、今泉くんと仲良くなるには自転車しかないという結論には至っている。彼が「自転車さえいれば」とか言っちゃいそうなくらい自転車にしか興味ない人間であることは、もう周知の事実である。

「も、もしかしてみょうじさん、今泉くんと仲良くなりたいの?」
「へ?あ、いや、そういうんじゃなくて」
「あああああの!!ぼ、ぼぼぼくでよかったら協力するよ!!」
「(あ、やばいこの人コミュ障だ)嬉しいけど、別に、」
「きょきょ、今日の練習見に来て見たらどうかな!?きききっと今泉くんも喜ぶよ〜!!あ、でも無理にとは言わないしみょうじさんにも用事があるだろうから本当気がむいたらでいいんだけどね?!」
「(やばいこの人めっちゃコミュ障だ)いや、あのね、」
「見に来いよ、練習」
「だからね、、、、え?」

振り向く前に、目の前であわあわうろうろ私を練習見学に誘っていた小野田くんが私の後ろを見て「あ、今泉くん!」と目を輝かせた。い、いまいずみ、、?

「お前、自転車興味あるって言ってただろ、来てみろよ」
「や、やっぱり今泉くんもそう思いますよね?!?!先輩方もかっこいいし今泉くんと仲良くなるには一番の方法だと思うなあ!!」
「、、、は?」
「、、、!?!?!!!!」

え、今こいつなんつったの、目白黒させて泡吹きそうになってるけど許さんぞ小野田くんお前今ばらしただろ。言っちゃったああああじゃないからね、そんな顔しても無駄だからね。もう私は何が起こっているのかこの場をどうしたらいいのか、そして唖然としている今泉くんと話すこと自体久しぶりすぎてどう話を切り出せばいいかわからない。社交的な方の人間だけど流石にわからない。呆然としていたら、いつの間にか今泉くんが隣に移動していた。あー、と彼が唸る。久しぶりに聞いたけど、この人の声はやはり綺麗だ。そんなことよりやばい逃げたい。

「俺もさ、」
「あ、はい」
「お前と仲良くなりたかった」
「・・・・へ?」
「部活見に来いよ」
「え、え、」
「あと、」

いい加減下の名前教えろ。
まだパニックに陥っている小野田くんには聞こえなかっただろう、そのくらいの声で彼はぼそりと呟いて、逃げるように教室のドアへ向かった。もはや走っていた。あれ、今泉くんってこんなに大きな背中してたっけ。声もこんなに低かったっけ。ていうか、名前なんか、名簿で見たらすぐわかるじゃん。何年同級生やってるの?今年で四年目よ?そんなことを大きな背中に投げかけることも出来ない。私が自転車に興味あるだなんて、そんな話を彼としたのは、もう何年前になるかわからない。どきどきしながら「おなまえだよ」と呟くと、後ろから覗く口角が上がったように見えた。山田先輩の笑顔よりも、少ししか見えない真っ赤な顔の方がキラキラして見えるだなんて、そんな、そんな馬鹿な。



ノンバーバルコミュニケーション
(20140304)
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