二人は | ナノ

 「僕は大変な事に気づいてしまった」とベルトルトが深刻そうな顔で相談してきたのは帰りのHRが終わってすぐだった。いつもだいたい、困ったような顔をしている彼があんなにうろたえているのも珍しい。小さい頃にアニのクレヨンを踏んでボキボキに折ってしまった時ですら、あんなにはうろたえていなかったと思う。仕方ないから「どうしたんだ」と身を乗り出すと、ベルトルトはすでに泣きそうな顔をしていた。うん、こういう顔はまあよく見るやつだ。

「なんだ、ベルトルト泣くほど大変な事をしたのか」
「そうだね、ライナーも、相手をクリスタだと想像して話を聞いてくれたらきっと僕の気持ちもすぐにわかるよ」
「リーナのことなのか?」

 ベルトルトがリーナに連れられて教室を出てから、このクラスの全員が彼らの関係を噂した。もちろん、恋仲にあるという、その予想は大前提で。いつからなのか、とかまさかあのベルトルトが、だとか、中にはベルトルトに好意を寄せる女子もいたようだが、まあなんて事ない。すべての質問が俺に向かって飛んできた大変さというかめんどくささというか、それらに比べれば「ベルトルトくん彼女いたんだショックー」程度の愚痴を漏らす女子の事など気になりもしない。とにかく「俺も知らん」と何回言っただろうか。あの煩わしさを思い出して顔をゆがめれば、「あの時は、ごめんね」とベルトルトが少し笑った。

「まあ、あれはお前のせいというよりもリーナのせいだな」
「本当だよ、いきなり連れていくんだから、おかげで僕も帰ってきてから大変だった」
「そのこと、リーナには言ったのか?何もあの時じゃなくてもよかっただろうし」
「言ったよ」

 彼女、「だってあの時しかないって思ったんだよ〜」ってにっこり笑うからさ、思わず許しちゃった、とけろり、ベルトルトが言った。そんなんで許すのか。そんなもんだよ。長年の思いを実らせたやつの気持ちはよくわからん。すると、ベルトルトが顔に影を作ってうつむいた。

「そんなことじゃなくて、僕が言いたいのは」
「ああ、そうだったな。なんだ早く言わねえと部活始まるぞ」

 ちなみに今、俺たちは部活に向かっている最中。体育館まであと数メートルといった距離である。こんな暗い顔で練習されてもこっちが困る。

「僕、言い忘れてたんだ。」
「何を」
「好きって」

 小指を階段にぶつけた。うっ、と小さく呻いてよろけるのに、隣のベルトルトは「これってやっぱりまずいよね」とまゆを寄せて相談を続ける。おいお前いたわる心もどっかに忘れてるぞ。

「いや、別にお前ら元々恋人だったし、いいんじゃないのか?」
「だからライナー!クリスタが相手だと思って考えてってば!」

 部室まであと少し。ベルトルトが「もう!」と声をあらげた。こいつ相談聞いてもらってるのにさっきから失礼だ。体育館にドタドタと入りながら、先輩に挨拶をする。お前ら元気だな、と笑われる。ベルトルトがそれすら無視しかけたのでしっかり頭を下げさせた。

「痛いよライナー!」
「痛いよじゃないだろ!お前周り見ろよ!」
「ちょっと落ち着いてライナー!」

 落ち着いてないのはどっちだ。そう思いながらも幼馴染のよしみだし、こいつがこんなにも何かで悩んでいるのは(それもいい意味で)久しぶりだろうから、仕方なしに部室のドアを締めて足をとめた。もう一度、「クリスタで想像して。」とベルトルトが言う。クリスタともし付き合えて、好きと言い忘れたとしたら?俺は想像した。クリスタが部室を出て「お疲れ様」とそこに立っている姿を。放課後一緒に帰る途中、たわいもない俺の話に笑ってくれる姿を。見返りを求めもせず、俺にひたすらに好きだと告白してくれるその姿を。


「ライナー鼻血!!!」
「すまんベルトルト俺には無理だ想像つかん。ティッシュ持ってないか」

 相談者は目の前で「そりゃないよ」と肩を下ろして暗い顔のまま着替えを始めた。いやだからお前いたわりの心どこに忘れたの、ティッシュください。




極端にもほどがある


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