二人は | ナノ

あの日の約束、ちゃんと守りにきたよ。
清々しい顔をしてそう言うのは、僕の記憶の中で一度死んだ彼女だった。忘れたなんて言わないでね、とか言うものだから、ため息と一緒にそれはこっちのセリフだよ、と笑った。彼女も一緒になって笑っていた。なんでもない夕方、テストを近日に控えた、放課後のこと。笑いながらついたため息と一緒に、僕の中で膨れ上がっていたモヤモヤが、すぅっと抜けていった気がした。改めて、彼女に向かい、なんだか久しぶりな気がするね、と言う。すると、なんというか効果音をつけるならばにへら、という感じで、会えてよかったと、リーナはゆるく微笑んだのだった。


「アルミンは、いつから覚えてたの?」
「ぼくはね、小学校だったかな、気付いたらこっちでもエレンとミカサとは幼馴染だったからね」
「そうなんだ、なんか、すごいね」
「本当だね」
「これが運命ってやつかな〜?」
「運命かあ、」

そんなに綺麗なものなのかな。そう言うと、リーナはキョトンとしたあと少し考えて、そして、わかんないけど会えたなら何だっていいねえ、と笑った。彼女がそうやって言えば、確かに何でもいいような気がした。みんな覚えてるといいね、なんて言えるのは多分彼女くらいなんじゃないかな。ライナーあたりも、そう言いそうだけど。僕らが悩んだ時間が何だったんたろうと思えるくらいに、目の前の彼女はこの変化に順応しすぎていた。でも、それに救われてるのも間違いではない。

「リーナは、悩んだりしないの?」
「え?どうして?」
「アニやライナー、ベルトルトが、敵だったこと思い出したり、自分が死んだ場面も仲間が食われたところも思い出したり、したんだろう?普通ならショックを受けたり、葛藤してしまいそうなことだよ」
「んんん、確かに、」
「強がったりしてない?」
「私が強がってもアルミンにはばれるよ〜」
「まあ、そうだね、」

でも嬉しい方が大きいからショックはないなあと、彼女は単語帳を意味なくペラペラめくった。その顔は確かに嬉しそうだった。直後、ガラリ、と僕ら以外誰もいない教室のドアが開き、リーナと目の前の彼女の名前が呼ばれる。首だけを向けるとベルトルトがいて、ぎょっとした。目の前にいた彼女が、それに対してあ、ベルトルトくん、だなんて嬉しそうに答えるのを見て更にぎょっとした。ちょっと、どういうことだ。


「え、え、え、リーナと、ベルトルト、え?」
「あれ??アルミンどうしたの?」
「リーナ、きみ、僕と話したってことちゃんとアルミンに伝えた?」
「あ、忘れてた〜!」
「そ、そこをしっかり教えてよ〜」

びっくりして言葉が出なかったじゃないか。そう言うとごめんね、とリーナは悪びれたそぶりもせずに笑う。ベルトルトが、帰ろう、と手に持つカバンを持ち直した。

「あ、ごめんね、アルミン、」
「あ、えっと、気をつけて」
「またあしたね〜」

ばいばい、と手をふられ、ぼうぜんと僕も手をふった。そして、ちらとこちらを見たベルトルトが少し不機嫌そうに、でもちゃんと手をふってくれたものだから、この間の彼とは丸切り雰囲気が違いすぎてもうなんか明日は雨でも降るんじゃないかとさえ思う。でも、廊下から聞こえる、部活おつかれさま〜これ金平糖だよ。だから疲れたときはしょっぱいものだってば。という優しい会話に思わず頬がゆるんで、ああ、なんかもう、なんだっていいし、なんとでもなるなあ。彼女は約束を、本当に果たしてくれたんだね。




幸福の鼓動


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