彼女は確信している


 私が彼、ジャンくんの良さをなぜこんなにも知っているかというと、それはひとえに私が彼に恋をしているからというそれだけのことだった。それだけのこと、一言で言えば終わってしまうことだけれど、それがこの世界でどれほど貴重で、そして淡いか。いつか教官がうつつをぬかすなと、某バカップルに注意していた事を思い出す。こんなむさくるしい、季節さえよくわからなくなるようなところにずっといるんだもの、それくらいいじゃないかと、私は思うのだけれども。

 ともかく、私はジャンくんに恋するしがない訓練兵の一人であり、そしてきっと誰よりも(あ、でもお母さんの次くらいに)どうかジャンくんに幸せあれ、と祈るいっぱしの女子なのである。私は彼が好き。すごくすごくかっこいい彼が好き。あの日、私があんなにも苦戦した立体起動のテストで、それはもう綺麗にかっこよく華麗に素敵にバシっとフォームを決めた彼を見て、好きになるなと言う方が無理な話だ。(ちなみに私はその姿を見ながら歩いてたせいで綺麗に華麗な転倒をしてしまった。)ジャンくんに恋しない他の子たちは目がちゃんと2つついていないのもしれないな。(頭)大丈夫かなとちょっぴり心配になったりもした。
 それほどに素敵な彼は、ある女の子に恋をしているらしい、とこれはコニーから聞いた話。最初はショックを受けたけれど、コニーの励ましも受けて、だいぶポジティブに構える事が出来るようになった。そして、私はいつしか、彼が、誰かを大事に思っているのなら、その背中を押すのは、親元離れて暮らす今、きっと私の役目に違いないと、そういう風に思うようになった。


「で、今日は何したの」
「ふふふ、よく聞いてくれましたマルコ!」
「どうせくだらないことなんでしょ。(なあに、教えて?)」
「マルコ様心の声と本当の声が逆になってますマルコ様」
「ああ、ごめんごめん」

 君といるとついつい正直ものになっちゃうんだ困るなあ、と笑うマルコは全然困っているようには見えない。とても楽しそうだけどなんだろうな、最近マルコはイライラしている時があるような気がする。こないだ、ジャンくんとミカサを一緒の当番に出来るよう仕組んだ後に振り向くとすごい顔して立っていたので、そっと頭を撫で「マルコも大変だよねよしよし」ってしてあげたら本当見たことないくらいすごい顔されたからなんだか怖くて結局1時間は肩もみ続けてたっけ。何が嫌だったのかな、全然わかんないや。

「今日は、なんと〜」
「もったいぶらないでよ」
「ジャンくんとミカサがお話出来るようにと、席を無理やり隣にしてみました!」
「・・・・へえ、効果は?」
「それが、途中でエレンくんのところにミカサが逃げちゃって・・・」
「そりゃそうだろうね」
「だからね、私がエレンくんの気を惹いて頑張ったんだよ、ジャンくんも嬉しそうだった」
「(もうこいつらまじで腹立つ)」

 にっこりと笑いかけたのに、マルコはもっとイライラしているように見えた。もうこの話はしたくないなと言われて、えええ、と答えると、少し先にアルミンが歩いているのを見つける。アルミン、今からご飯?と声をかけると、少し疲れた顔をして、そうなんだと彼が笑った。みんなが夕食を終えてからしばらくは経ったと言うのに、彼は何をしていたのだろうか。わたしたちを包む夜は生ぬるくて、小さく聞こえる虫の音をも飲みこんでいく薄暗さだった。

「アルミン、ご飯、遅いね?」
「ああ、ちょっとね、」
「もしかしてエレンとミカサ?また喧嘩でもしたの?」
「ん〜、なんていうか、ミカサがエレンと話す時間少なくてイライラしてる、感じかな」
「そうなんだ、大変だね、アルミン」
「(君が原因だって言いたいすごく言いたい)」

 仲介役のアルミンはつらいところあるよね、とその肩をぽんぽんと叩いた。アルミンは少し微妙そうな顔をした。後ろでマルコがため息を吐く。二人が目を合わせてなんだか遠い目をしていたから、なあに、二人で隠しごと?と聞くと無視をされてしまった。アルミンまで珍しい!(マルコは少し、慣れてしまった)


「じゃあ、僕、ご飯たべてくるね」
「あ、う、うん。お気をつけて・・・」

 別に病気じゃないのだけれど、いつもより縮こまった彼の背中を眺めて手を振る。夏バテになりそうだよね、アルミンって。とマルコに言うと、君は少し夏バテになってほしいなとなんとも冷たい言葉が返ってきた。最近マルコ私に冷たいよ〜、振り返ると、いつもの呆れた顔だけじゃなくて、やっぱりそこには優しさが含んであって、ちょっとほっとする。フランのためを思ってるところもあるんだけどね。そばかすの頬が笑った。

「ジャンの事、好きなんだろう?」
「うん、好きだよ」
「ミカサとジャンが仲よくしてても、平気なのかい?」
「んん・・・その質問は難しいよ」
「なんでさ、フラン、変なの」
「ジャンくんが好きなのは、ミカサだから。応援しなきゃ。」

 それが恋ってやつだよ、と少し威張って言うと、君の気持ちはどうなるのさ、と変な顔をされてしまった。変かな?変だよ頭おかしい。あ、またマルコイライラしてるなあ、でもそれが私のためを思ってのものだってなんとなく今はわかったから、優しいやつめとまた頭を撫でたら、にっこりと笑ってやめて、と言われた。えへへ、今のマルコ今までで一番怖かったなあ。


彼女は確信している。
(20130803)



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