幼少期マサレンのつもりだけどレンマサっぽいかも?
ヘブンズドア
小さな頃、少し寂れた教会に忍び込んだことがあった。
冬であったか、秋であったか定かではないが、とても寒い日で俺は手袋を忘れてしまい手が悴んでしまっていた。
我慢していたら、寒いんだろ?と言ってあいつは手袋を差し出してきて、俺の手に握らせた。
こういう時に年上面する癖は治っていない。
俺が知っている昔からのあいつの悪い癖だ。
「いいよ、だってレンが冷えちゃうよ」
「こういう時は年上の言う事もんだよ」
「そうやっていつも大人ぶるんだから!一つしか違わないのに」
あいつも意地っ張りだったから(いや今もか?)結局手袋の押し付け合いになってしまって、最終的に右手の手袋は俺、左手の手袋はあいつが着ける事になった。
軽く喧嘩のようになってしまってあいつは少し拗ねてしまったけど、本当に手袋が暖かくてありがとうと言ったら、うんと言った。その顔は俺となんら変わらない歳相応の子供の顔だったように思う。
暫く歩いて、あいつは小さな教会を指差して、なあ真斗、と言ってきた。
「先月確かあの教会で結婚式をしていたんだ」
「そうなの?初めて来たからよくわからないけど」
「ねぇ、」
にやりと悪戯を思いつたような顔をして、忍び込まない?と言った。
「忍び込むって中に誰かいるんじゃないの?」
「それがさ、そのあと牧師が廃業してまったらしいんだ、だからあそこは無人なんだよ」
「じゃあ勝手に入ったりしたら駄目だよ!」
そもそも入れるかわからないじゃないか、と小さく呟く。
こういう時、口であいつに勝てた試しが今までなかったからだ。
「ほら、入れるかわからないなら行ってみる価値はあるだろ?」
あいつはそう、昔からいつでも強引で、俺を連れ去っていくんだ。
結局教会に忍び込む事にした俺達は教会に向かった。
正面の扉は施錠されていて、寂れてはいても子供の力ではどうにもならなかった。
あいつは少し考えるように首を傾げた後に建物の壁を沿って歩いていってしまう。
置いていかれたので追いかけようとしたら、おーい!という声が聞こえたので俺は慌ててあいつがいる方へ駆け出した。
「やっぱり裏口は開いてたよ」
お約束ってやつだね、と言って手袋のない方の手を取ってきた。
「行こう」
キィと音を立てて扉が開く。
ステンドグラス越しに光彩が降り注いできて、まるで天国の扉みたいだと思った。
辺りを見回すと、磔にされているイエスとマリア像がこちらをみているようで、俺はとても悪い事をしているんだと今更ながらに思った。
さっきまでステンドグラスの美しさに心を奪われていたのに子供の心とは随分とすぐ変わるものだな、と今思い出すと笑ってしまいそうだ。
「ねぇ、レン、」
「結婚する二人はさ、ここで永遠の愛を誓うんだよ。病める時も健やかなる時も愛を誓いますかってやつ」
もう帰ろうよ、と言おうとすると、俺の心情を知ってか知らずかあいつはそんな事を話し出した。
いきなりそんな事を言われてなんと言っていいのか、その時はわからなかった。
「真斗、誓う?」
病める時も、健やかなる時も、俺の事愛すって誓える?
そういった時はあいつは俯いていてどんな表情をしているかわからなかったが、その後顔を上げていつものような飄々とした笑い顔だった。
「なんだよ、それともお前はオレの事キライなの?」
「嫌いじゃないよ!」
「じゃあ、病める時も、健やかなる時も愛を誓いますか?」
ごくりと唾液を飲み込んだ。
それでも喉はかからからに乾いていた。
出ない声を振り絞って、ちかいます、と言った。
「オレも永遠を誓うよ」
冷たく小さな唇が触れた。
どれだけ触れていたかは定かではないが、まるでその間は時が止まっていたようで触れた場所からあいつと混ざり合って一つになってしまうのではないかと錯覚しそうだった。
そんな錯覚じみた思考も唇が離れた事によって終わりを告げる。
「ほら、真斗」
そして薔薇色の唇が紡いだ。
「誓いのキス、しちゃったよ。神様の前で約束したんだから、もうオレの傍から離れちゃだめだよ…」
***
そう、あの日、確かに神の前で誓った。
今日のようにとても寒い日。
相変わらず、手袋はしていない。
あの教会はまだ取り壊されていないようで、今もこの場所に佇んでいる。
裏口に行くと、やはり扉は開いた。
埃臭くてたまったものではなかったが、ステンドグラスは美しいままだ。
背が伸びたせいか、磔のイエスも、マリア像も昔に比べて近くなった気がする。
祭壇の前へ行き、あの時よりも低くなった声を放つ。
「破ったらどうなるかわからない誓いなんて、無意味なんじゃないか?神様とやら」
冷たい空気に、声が溶けていった。