言い訳 | ナノ



言い訳




「眠れないのか、神宮寺」

雨が降りそうな湿度の高い気候だ。
聖川が寝ている方に背を向けて膝を縮こませていたら、珍しく聖川から声をかけられた。
本当に珍しい。
それに、オレはほとんど動いてないのに、何故気付いたんだろう。
返事をしないで狸寝入りを決め込んでいると、もぞもぞと聖川がこちらのベッドに入ってきた。

「おい、何入ってきてんだよ…!」

そんな声を無視して俺のベッドに侵入してくる。
今度はお前が無視か。
薄手の毛布を捲り上げて、聖川は目を怪訝な目付きをした。

「お前このような気候の時もそんな格好して寝ているのか」

関心せんな、と言い聖川はそっと俺に触れてくる。
少し冷えた体には聖川の手はじわりと熱く感じた。

「こんなに冷えているではないか、風邪でも引いたりしたらどうするんだ」

聖川がずい、と寄ってきて首筋に顔を寄せて、そのまま抱きしめてくる。
ぼそりと耳元で囁かれた。

「こうしていると昔に戻ったみたいだな」

そうだ、昔は俺が眠れないと、こうやって聖川が抱きしめてくれた。
こうすると、良く寝れるでしょ?と大きな瞳で見つめてきたのを思い出す。
オレり一回り小さな手で俺の体を抱きしめていた。
オレより幾分高い声で俺の名前を呼んでいた。
懐かしい、あの頃は何も考えず、こいつと笑いあえていた。

「お前はだいぶ大きくなってしまったがな」
「それはお互い様だろう」

成長して、体躯だけではなくいらぬ何かも育ってしまったのだろう。
オレと聖川、いや、少なくともオレ俺は、それに何度も邪魔されている。
こいつの体温が温かい事など、昔から知っていたはずなのに、縋る方法を忘れてしまったのだ。

「お前は、温かいな」
「お前はまだ冷たいようだ」

ぎゅう、ぎゅうと音を立てるように抱きしめる力が強くなった。
だが俺はそれに文句を言う事はなかった。
それから暫くお互い無言だった。聖川は寝てしまったのかもしれない。
さっきまで気が付かなかったが、窓の外ではざぁざぁという音が聞こえてくる。
やはり眠れなくてそのままぼうっとしていると、ふと聖川は何故オレのベッドに入ってきたのか疑問に思う。
特に思い当たる節はない。
知り合ってからの年数は無駄に長いがオレはこいつが考えている事がほとほとわからない。
そんな事を考えていると、オレを抱きしめている塊がぴくりと動いた。
少し眠たそうな声で、なぁ、神宮寺と呼ばれた。
聖川は顔上げようとはせずに、ぼそりと、たまには昔のように、こうして共に眠るか、と言ってそれ以上何も言わなくなった。
相も変わらず聖川の体温は心地よかった。
背中に手を回して少しだけ力を込める。

「そうだな、昔みたく、こんな風に寝るのも、悪くない」

昔、みたいに。