感情なんて、 | ナノ
光が中二病くさい話。
キスしてます。
「けんやさん、」
今日謙也さんは告白されてた。
学年すらわからない人だったが、多分可愛い子なんだろう。
茶髪でふわふわな長い髪に短いスカートから伸びた足は、中学生らしく柔らかそうに丸みを帯びていた。
俺が逆立ちしたって手に入らない物を持っている彼女は、まぁ、多分振られたんだろう、涙ぐみながら裏庭から駆けてった。
俺も女の子だったなら、こんなに不安になることもなかったんだろうか。
こんな事がある度、そんなくだらなくて、どうしようもないことばかり考えてしまう。
「ひかる?」
名前を呼びながら動かない俺を不審に思ったのか謙也さんは声をかけてきた。
ああ、謙也さんの声、好き
「どないしたん?」
「あぁ、なんでもない、すわ」
クールとうたわれている俺はこの人の前だと相当わかりやすくなってしまう。
「なんもないって顔しとらんやろ、もしかして昼間のみた?」
昼間の、と言っている時点で謙也さんもその事を気にしていたとわかってなんとも言えない感情で心がいっぱいになった。
「かわええ子、やったんやないすか」
「かわええゆうてもなぁ」
「ええんやないすか、それなりに胸でかかったし、無邪気そうっちゃあ無邪気そうだったし、」
あぁ、きっとこのままだと言っちゃいけない事まで言ってしまう。
「俺なんかより、あの子のがきっと謙也さんにはお似合いなんとちゃいます?」
言ってしまった。
だめだ、もう嫌われてしまう。
めんどくさい奴だって、思われてしまう。
俺には謙也さんしかいないのに。
ぎゅっと自分の手を握ると謙也さんが抱きしめてきた。
暖かい、謙也さんの体温はいつでも暖かい。
でも、俺はいつでも冷たいから、たまに辛くなる。
「不安にさせて、ごめんな」
謙也さんは困ったように眉を少し下げて言った。
「でもな、俺には光しかおらんねん、だからそないなこと言わんで…」
「謙也さん、キスしてええ?」
「ん、ええよ」
ちゅ、と触れるだけのキスをすると、少しだけ心が軽くなったような気がした。
それがキスのせいなのか、先ほどの謙也さんの言葉だったのかはわからないが。
そのまま唇に続いて鼻や頬、顎にキスをすると、謙也さんはくすぐったそうにする。
「謙也さん、舌出して」
口を開けたら、んん、とやらしい声を出して舌を出した。
赤い舌とぽっかり空いている口内を見て、たまらなくてそのまま舌にしゃぶりついた。
じゅ、じゅと音を出しながら、口の中を犯していると、謙也さんの頬は上気してきてより一層いやらしい顔になってきた。
キスをするだけで、こんなにいやらしくなれるなんて本当にこの人は恥ずかしい人だ。
その証拠にこんなに、口の中が熱い。
「謙也さん、顔真っ赤やで?」
笑いながらそう言うと、そっぽ向いて、光とのキス、すきなんやもん、と言った。
「俺とのキスが好きなん?俺が好きなんとちゃうの?」
「光が好きに決まってるやろ!」
唾液に濡れた唇を尖らせて彼は言う。
ああ、この唇が、一生俺だけのものだったら、そんな事を考えてしまう。
好きと言われても、抱きしめても、キスをしても、セックスしたって、結局、感情の根本的な部分はなんら解決されていなくて、少し気が楽になって終わってしまう。
こんなぐずぐずな心を謙也さんになんとかしてほしかった。
「もっかい、キスしてええ?」
感情なんか全部なくなって、謙也さんへの愛だけで生きていければいいのに。