謙也+友 | ナノ



サムシング・ブルー




光謙、翔友前提の謙也+友香里
未来ねつ造注意





「あれ、友香里ちゃん今一人なん?」
「そうなんよ、もうパパとくーちゃんが大泣きしてもうて親戚一同で慰めてるねん」
「なんやねんそれ」

謙也くんは今日は笑いながら、「今日の主役ほっぽってひどいやっちゃな」と少し目じりを垂れさせながら微笑んだ。
思えば初めて会った中学の時から、彼も私もだいぶ年をとったものだ。

「でも、よぉ似合ってるわ」
「翔太には勿体ないくらいやろ?」

そう言うと謙也くんは私の方へ一歩近づいてきた。

「ほんまやわ、まさか友香里ちゃんみたいな別嬪さんがうちにお嫁に来てくれるなんて思ってなかったわ」
「ふふ、今日から謙也くん、私のお兄ちゃんなんよ?」

頭に飾ったベールを弄りながら謙也くんを見遣ると、目を一瞬大きく開き、謙也くんはこう言った。

「友香里ちゃんは、いつでも俺の妹やったで?あ、もちろん、翔太と付き合う前からな!」

自慢げに笑う彼を見ていると、なんだか無償に感動して泣いてしまいそうだった。
この人は、いつもそうなのだ。自分の事なんかほったらかしで、周りの幸せばっかり願ってしまう。
そんな彼だから、きっと翔太もひどくわかりにくいがこんなにも兄想いなんだろう。

「でももうおれも叔父さんって言われんのかー、複雑やなぁ」
「なん、謙也くんもう十分おっさんやろ?」
「な…っ友香里ちゃんかてそんな変わらんやん!」

こうやっていつもムキになって本当にいくつになっても子供みたい。
私たちの子供とも、きっとこうやって接して、たくさん笑顔をわけてくれるんだろう。いつものように。
でも私はかねがね思っていたことがあるのだ。そう、翔太も抱いていた事。

「なぁ、この子が男の子ってわかったとき、翔太なんていったと思う?」
「え、キャッチボール出来るー、とか?」

私は頭を振ってこう言った、翔太と話してから、ずっとずっと、言いたかったこと。

「友香里、この子と友香里と俺で、忍足医院をつくっていかんか?っていわれたんやで」

あはは、びっくりしとる、相変わらずかわええな、年上になんか思われへん。

「なに、言うてん、」

そう、忍足医院は結構長く続いてる病院で本来ならば長男である謙也くんが継ぐはずだった。そして、お嫁さんをもらって、子供を作って、そういうレールに乗っているはずだった、彼の父親のように。
謙也くんはお父さんを尊敬していたし、今はもう研修医の期間を終えて立派なお医者さんだ。
でも、彼はそのレールから降りたがっている、誰にもそんなことは言わなかったけれど。
財前光、そう彼の恋人。
いつから付き合っていたかは正直わからないのだが、中学の時からならば相当な期間だ。
謙也くんの中で財前光の存在はそれほど大きいものなんだろう。
だけど、彼は忍足家の長男という立場を捨てられるほど、盲目になれなかった。
でも、財前光との未来という希望も、捨てきれなかった。
私たちも、謙也くんの幸せを諦めたくなかった。

「やからね、翔太と私のこの子で、忍足医院を継ごうと思ってるんよ」
「なんでなん…」
「翔太きっと、ずっと謙也くんらに幸せになってほしかったんよ、どうしようもない兄馬鹿やよね」

私はそっと謙也くんの手を取った。

「これで謙也くんも幸せになれるね」
「俺、友香里ちゃんと翔太と、その子供縛りつけてまで、幸せになんてなれん!」
「優しいね、謙也くん。でも、謙也くんが幸せやないと、うちらだって嫌なん
。翔太はもともと、病院継ぎたがってたし、私も、一生懸命働いてる翔太を見て、この人の天職は医者だと思ったし、それを支えていきたいって思った。だから、私たちは幸せよ、ね、謙也くん、人はみんな幸せになる権利があるんよ、だから絶対、謙也くんも幸せにならんとあかんの」

謙也くんは泣いている。
罪悪感で泣いているんだろうか、でも、違う涙であってほしい。

「友香里ちゃん、おおき、にな…っ」

きっとこれから、優しい彼は色んな辛い事があるだろう。
私たちの選択は逆に彼を追いつめてしまったかもしれない。
それでも、後悔なんてしていない。彼の今の言葉が、証明してくれたから。

「今日は謙也くんと財前さんの結婚式でもあるんよ。これ、謙也くんにあげる、サムシングブルーっていってね、青い物を身につけると花嫁さんは幸せになれるんだって」