I love you


目の前には泣く少女。ああそうだよ、と俺は半ば放棄した思考で呟いた。

馬鹿とののしられようが変態と言われようが、確かにこの少女にとっては一大事のことであっただろう。俺に言い訳の余地は恐らく、残されていない。

「先輩の…馬鹿、最悪、嫌い」

普段は明るい光を宿す大きな目から次々と滴が零れ落ちる。両手は自らを守るように肩を抱き、蹲っていた。

「……嫌い」

ああ、と俺はため息とも返事ともつかないものを返す。中島は聞いているのか、どうか。

しかし、と行き詰まりの現状に俺の思考回路は逃避をはかりはじめる。今だ自分のシャツを羽織ってぽろぽろと涙を流されるのは妙に扇情的だ。誘っているのかとついつい不埒な方向に頭がいくが、そんなことでは拗れるばかりである、と流石にその程度の認識はある。

「……中島」

「嫌い」

なぁ察してくれ、というのは酷く傲慢な願いだろう。この年代の少女はこういうことには人一倍敏感だ。それはいくらこういう方面については疎いだろうと思われる中島も例外ではないだろう。けれども俺がそういうことを言えるのかと言えばそれはまた別の次元の話で、その齟齬は埋めようがなかった。

俺はそういう性質じゃない、とでも言い訳すればいいのか。そうすればお前は泣きやむか。それはそれで、双方にしこりを残すのだろう。

ならば、と俺は諦め混じりに考えた。
愛の言葉でも囁けば満足か。好きだ、愛している、と?月が綺麗ですね、なんてこの少女には伝わらないに違いない。四迷はもっと却下だ。

お前は俺に確固たるものを求めるのか、と俺は思う。それは確かに当然の権利なのかもしれない。おそらく十人に九人が俺のことを批判するだろう。
ただ、と俺は息をついた。

求める相手が間違っている。お前がそう望むなら俺ではなく、もっと別の人物にするべきだったのだ。

苦し紛れと開き直りが半々で結局俺の思考は最悪なところに落ち着いた。自分でさえ、そう思うのだから非難されることは必至だろう。

「中島」

立ち上がると、ぎし、と畳が軋む音がした。そのまま一歩、少女に近づく。中島はびくりと肩を揺らした。しかしおびえたようにしても逃げる様子は見せない。そこまで頭が働かないのか、それとも体がいうことを聞かないのか。馬鹿め、そんなんだからこんな奴につけこまれるのだ。

中島のテリトリーを測るように、少しずつ足を前に進める。ようやく目の前に立ったところで、警戒心を露わにした中島と目があった。だから、と俺は呟いた。逃げればいいのに、と。

緩慢な仕草で、中島の前に座りこむ。至近距離で顔を覗き込むと、もう涙は止まっていた。ただ頬には涙の跡があり、目じりにもまだ名残が残っている。下を向けば、いっぱいに溜まっているそれらが零れ落ちそうだ。

「……悪かったよ」

そっと、手を伸ばせば予想はしていたがぎゅっと自身の体を抱いて動ずる気配を見せる。
仕方なく、手を止めた。怯えさせたいわけでも、警戒させたいわけでもない。今更かもしれないが。

「別になにもしない」

「……さっきしたくせに」

「悪かった」

中途半端に止めていた手をもう一度伸ばす。今度は中島は拒否しなかった。静かに、頬を拭ってやる。濡れた感触が伝わった。

くしゃ、ともう片手で柔らかく髪を撫でる。すべりがよい髪は、さらさらと俺の指の間を零れ落ち、また元に戻った。

「……俺が、お前にどれだけ変えられたと思ってるんだ」

正面きって告げることが出来ないのは俺の性格のせいか自尊心のためか、どの道中島に非があるわけではないと分かっている。
しかしそれを手前勝手な思考だとは重々分かりつつ、少しばかりの苛立ちさえ込めて言った俺の言葉に中島ははっとしたかのように顔を上げた。続いて、薄い唇が、きゅっと横に引き結ばれる。

「馬鹿。……大馬鹿です」

かろうじて耳に入るかどうかの小さな声で中島はそう呟き、下を向いた。
それからそっと、その細い指が俺の服を掴む。

「……先輩の馬鹿」

最後にもう一度そうして俺を非難すると、ぽすりと中島は俺の胸に頭を預けた。






珍しくCPっぽい四真です。
甘めです(当社比)。
いつも糖度控えめですみません…。私の精一杯なんてこんなもん。
なんでいきなりこんな話書いたのかというと、
実はこの話、私がこのサイト始めた当初にですね、図々しくも参加してきた文字茶で盛り上がって、
まさかの主催者のサイト主さんがその妄想を後日形にしてくれたというですね、素敵な話があったわけですよ。
で、そのイラストを見た私が頭ぱーんてなって完成させたのがこれ。
暴走した結果がこれ。
で、しょうがないからその管理人さんに恐る恐る相談したら、掲載許可がでたんだぜやほーい!

…という経過があります。
そして私の暴走の原型となっていただいたのが、
柊さんが管理人をなさってる「ASiM!」というサイトさんに掲載されています。サイト名から飛べますよ。
是非行ってみてください。柊さん、掲載許可ありがとうございました!!








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