log | ナノ

 女が嫌いなわけとちゃうけど、正直めんどくさいとは思う。謙也がしょっちゅう彼女怒らせとるんを見とると、よけそう思う。ちゅーかそもそもあいつ女の選択下手すぎやねん、俺でさえ分かるわ。好きでもないくせして、ちょっとかわいい女の子が猫かぶって告白してきたら受け入れる。せやけど好きなわけちゃうから彼女に何かしてやるとかもないし、結果、告ってきた女の方から別れを切り出される。お節介や思うから言わへんけど、もっと性格よさそうで謙也のこと好きな奴なんぎょうさんおるっちゅう話や。あ、口癖移った。
 そんなわけ(どんなわけやねん)で、俺は女は好かん。ちゅーか小春が好きや。

「『ななし、ちょおそこのいてくれる?』」
「あ、白石くんごめん……って、おい一氏コラ!」
「なーにが、『あ、白石くん』やねん。きしょいわあ、言うたんは俺や、俺」
「ちょ、声真似やめえや!」
「『声真似やめえや!』」
「やめ言うてるやろうが!死なすど!」
「うわ、ぜんっぜん似てへんわ。オドレの物真似センスは0やな、0」
「はっ倒すで!」

 お互い口争いをしながら移動教室のために廊下を歩く。ほんまは小春と行きたかってんけど、あいにく小春は今日休みやから。しかったなーく、一人でぼさっと廊下の真ん中に突っ立っとったななしに話しかけたった。
 ちなみにこいつは女やない。男でもない。地球外生命体やと思ってるから問題ない。

「何で女子は白石みたいな奴に弱いねん」
「ユウジから見ても白石くんはかっこええやろ?」
「あー……顔はな。せやけどアイツしらふでエクスタシーとか言うねんで。どん引きや」
「エクスタシー……噂には聞いてたけどほんまやってんな」
「『ななし、好きやで』」
「!!」
「『愛してるで。んー、エクスタシー』」
「……ときめきが一気に萎えた」
「せやろ」

 あからさまに顔を赤くしたり眉を下げたりするこいつは、分かりやすすぎると思う。これくらい分かりやすいんやったらめんどくさいとかも思わへんのやろか。

「テニス部は無駄に人気あるよなあ。癖の強いイケメンばっかや」
「そうなん?」
「せやで。白石くんはもちろんやけど、忍足くんも石田くんや小石川くん、転校生の千歳くんも」
「へー」
「あと、誰やっけ?二年のごっつピアスしてる……」
「ああ財前」
「そうそれや。仲間内で人気すごいねんで」
「ふーん」

 ななしの口からテニス部の話を聞くのは、何や不思議な感じがした。普段一緒におる奴らやからなあ。もてるとかもてへんとか、いちいち気にせんし。そもそも俺には小春が…ってもうええわ。

「……『浪花のスピードスターのが上やっちゅー話や!』」
「ひっ……!」
「『色即是空』『先輩ら、きもいっすわ』」
「ちょ、……ユウジ?」
「……ななしはこういう奴らが好きなん?」
「や、好きとはちゃうけど」
「……ふーん」
「……あー、でもな」
「あ?」
「テニス部でやったら、ユウジが一番ええかも」
「……」
「ユウジは何やかんやでしゃべりやすいしな」

 生物室に着いた。俺がぴたりと歩くのを止めると、並んで歩いていたななしもぴたりと足を止めた。ほんで、「どうしたん」と俺を見上げてきた頭を、俺は左手で鷲掴みにした。ななしは、「ひっ…!」と声を漏らして直立する。何やねんこいつ。ちゅうか俺は今何してんねん。

「ユウ……」
「黙れ、死なすど」
「……はい」

 俺たちは二人共、時間になってやってきた教師に突っ込みを入れられるまで動けずにいた。
- ナノ -