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「でけぇ月・・・」

目を閉じても眠れなくて、外に出てみた。夜中だっていうのに随分明るい。屋根に登ってみるとそれはますます明るくなった。

「あー・・・」

今日、何があったっけなあ。ぼんやりと考えてみた。浮かんだのは目の前で死んでいった一人の天人の姿だった。俺が胸を一刺しにして殺した。
毎日毎日、そんなのばかりだ。戦争だから仕方ないと言えばそれまでかもしれないが、そもそも戦争が仕方なく起こるものだとは思わない。誰かが誰かを憎み、嫌い、奪い合いその延長線上にあるのが戦争だ。元はと言えば子供同士の下らない喧嘩のようなものだというのに。
そしてそんな下らないものに付き合わされて殺し合う俺たちは何なのだろう。意味を考えたことは、無かった筈だけど。

「・・・何でそこにいんの」
「あは、ばれた」
「そりゃばれるだろうよ」

そう、と楽しそうに笑い女は俺と同じように俺の横に腰を下ろし、胡坐をかいた。そしてこれもまた俺と同じように空を見上げて「でっかい月」とそうこぼした。
女の横顔は青白く、腕は折れてしまいそうに細い。これであの重い刀を振るえるのだから不思議な話だ。

「銀時ー」
「何だよ」
「何でわたしたち戦争するのかなあ」
「・・・知らねえよ」
「いいことないと思うけどなあ」
「じゃあそうやって言ってやれば、将軍様とやらに」
「じゃあ明日行ってくる」
「・・・お前バカだろ」

銀時よりは賢いよ、三桁の数字の計算だってできるんだから。そうか、俺は四桁できる。返して笑った。何てくだらない。だけどきっとこの戦争よりは意味がある。筈。

「いつになったら終わるかねえ」
「さあな、気が済んだらじゃね?」
「いつになったら気が済むかねえ」
「さあな・・・全員殺し終えたらじゃね?」

言うと、「そうかあ、遠いね」と言ってため息を吐いた。そういえばこいつは何のために戦っているのだろう。突然疑問に思った。松下村塾に通っていたとはいえ、こいつは女だ。強制はされないはず。

「お前さ、何のためにこんなとこいんの」
「こんなとこって?」
「こんなとこっつったらこんなとこだよ。お前、女だろ」
「んー・・・わかんない」
「何だよそれ」
「んー。だって、わたしは高杉みたいに松陽先生のため戦ってるわけでもなければ、小太郎みたいに国のため戦っているわけでもない。かと言って辰馬や銀時みたいに自分のために戦っているわけでもないし・・・。」

女は、「強いて言うなら、みんなのためかなあ。仲間が死ぬのは嫌だからなあ」そう言って、くるくると長い髪を人差し指に巻き付けた。俺は、「そうか」とだけ返した。

「何か俺も、戦う意味ができたかもしんねえ」
「どういうこと?」
「さあな。まあ明日までに考えておけや。俺はもう寝る」
「え、ちょっとわたしまだ眠くないから起きててよ」
「知るか、勝手に一人で夜更かししろ。んで明日の朝目にクマでも作って高杉達に笑われろ」

ひょい、と屋根から飛び降りた。左上を見ると、あいつはまた月を見上げている。本当に、明るい夜だ。
たとえば、この世界の奴等がみんなあいつみたいに仲間が死ぬのが嫌だからと人を思って戦っていたなら、この戦争の終わりはあっただろう。始まりというものが無かったかもしれない。人を殺すことが、この戦争が良いことだとは決して思わない。だけどそれでも俺は斬らなきゃいけない、そうだ世の中そううまくはいかない。
汚い考え持った奴は腐るほどいるし、自分が生きるために精一杯な奴も同じくらいいる。だから無くならないのだ、戦争は。俺は、俺の守りたいもんを守るために生きている。そう考えることが、俺が戦う意味へと簡単に直結する。そうだ、簡単なことだ。俺たちが踊らされることの意味なんて、本当に無い。しかしせめて目先にあるものだけは守りたい。ただ、それだけなんだ。
戦いたくない、人を殺したくない。それはごく当たり前な人としての考えだが、それが不可能である今。俺はとりあえず守りたいものを、あの馬鹿げた女を守るために明日も人を斬ろうと思う。その先に生まれるものなんて何も無かったと、しても。
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