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「はい、じゃぁ今日居残りのヤツは――」


そんな銀八(担任)の声を聞いたのは今から一時間程前のこと。
また、いつものようにクラスで唯一の呼び出しを喰らったわたしを、神楽や総悟が指を指して笑ったのを思いだし、少しイラッとした。
それにしてもこの呼び出し、毎度毎度様々な理由で呼ばれるもどうにもおかしい気がする。
わたしは別段賢いなんてわけじゃないがバカでもない。
つまり、テストの出来が悪くて呼び出されることは先ず無い。
素行も、……うん、まぁ悪くない、大体わたしが呼ばれるなら総悟達のが呼ばれる。
と、なるとだ。
理由が見つからない。
いや、一つだけあるんだけどね、それはあり得ないだろうから、うん。

いろいろな考えを巡らせながらわたしはコピー機の前に立ち、銀八に頼まれた書類を次々にコピーしていく。

「そっれにしても遅いな銀八……ジャンプ買うのにどんだけ時間かかってんだよ」

ぶつぶつと呟きながらも仕事を進める。わたしはできる女だな、将来はOLになって寿退社しようなんて考えながら。
すると、突然部屋の外でガタガタと騒がしい音がした。
と、思ったら、

バァァン

「あー、ったく、たりぃなチクショー。ジャンプ位置いとけっつーの」
「……」

壊れるほどのドアの音、そして素晴らしい愚痴と共にわたしの担任、坂田銀八は帰ってきた。

「銀八遅いよー。わたしもう帰りたいんだけども」
「まぁまぁ、そう言わないで先生と愛や夢や勇気について熱く語ろうぜ」

そう言うと、よっ、というかけ声と共に近くにあったくるくる回るイスに座り、買ってきたジャンプと苺牛乳を袋の中から取り出す。
わたしの分は無いのか、とか聞きたかったが聞いたら聞いたでまた時間がかかりそうなので止めて、鞄を手に持った。

「じゃ、銀八、コピーは終わったからバイバーイ」
「……」

シカトかコイツ、とか思ったがあたしは銀八に背を向け部屋を出ようとした。

「なぁ」
「あ?」

まさにドアノブに手をかけたその瞬間、わたしは突然呼び止められた。
後ろにいる銀八の方へ向き直ってみるが、銀八はこっちを見ていない。
ジャンプに目を向けたまま口だけを動かしている。

「なぁ、お前さ、疑問に思わないわけ?毎日毎日呼び出されて」
「……毎日呼び出ししてる奴が言う台詞じゃないよね」
「別に来なきゃいーわけじゃん、雑用させられるなら」

そう言うと、漸くわたしに目を向けて「なんで?」とか聞いてくる。
わたしは思わず固まった。
だって、何でって言われても何でって……。

「えっと、あー……それは」
「それは?」

わたしの答えを待つかのように銀八はこちらを見ている。
その目はいつものような死んだ魚の目じゃなくて少しだけ煌めいていた。

「あー……あーあー。……帰る」

答えが見つからない。
しかも、この空気に耐えられない。
そんなわたしが出した結論は帰ることだった。
急いで手を掛けていたドアノブを回し外に出る。
すると、

「また明日も来いよ」

その言葉を聞けなかったこともできず、わたしは背を向けた。
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