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「汚ねぇ、餓鬼だなァ」
「うる、さいな。殺してやろうか?」
「ククク、できるもんならやってみなァ、餓鬼」

突然目の前に現れた、私を餓鬼呼ばわりする嫌な男。
頭にグルグルと包帯を巻き付け、派手な柄の着物。
手には今時なかなかお目にかかれないキセルを携えていた。

「そう睨むな。怪しいもんじゃねえ、とは言えねえが」
「消えろ、今すぐ、目の前から」「えらく吠えるじゃねぇかよ。そういう言葉を使うのァ、あまり賢い手段じゃねぇなァ。敵を煽るだけだ」

私に対して、何かの威圧をかけるようなその言葉。
それとは裏腹に、至極楽しそうな声音。
苛々する。

「何がおかしい」
「いやァ、大したことじゃねぇよ。ただ、今にも死にそうな面して、飯も満足に食ってねえだろうに俺にやたらと噛みついてくるのがおかしかっただけだ」

そう言って、再びククッ、と喉の奥で笑う。
確かに、ここ三日、食事、と言えるものを摂ってはいない。
おまけに昨日からやけに身体が熱い、熱があるのかもしれない。
ただ、だからと言ってコイツが笑う、そんなにもおかしく思う理由にはならない。
ただ、道端に転がっている死にそうな餓鬼だ、放っておけばいい。

「……」
「突然おとなしくなったじゃねぇか。もう噛みつく体力もねぇのかよ、無様だなァ」
「っ……」

確かに男の言うとおりだ、私はもう、息をするのさえ苦しい。
そう思って目を瞑りかけた瞬間、ふ、と男が近くなった。

「な、に……」
「来いよ、餓鬼。俺が拾ってやる」
「ふざ……けんな」

喉から絞り出した声は、それだけを語るともう何も発することはなかった。

苦しくて、苦しくて、目を瞑った。
気がつけば温かい布団の中にいて、横には食事が置いてあって、無心で食らいついた。
人間は、貪欲だ。生きるためなら、何にでも縋り付く。
でも、それでもいい。
奪われたこの身が朽ちるまで、お前のために生きることを決めたから。
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