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 走る。走る。走る。腕を足を小枝が掠めた。気にしない。わたしはひたすら出口へ向かう。走る。走る。走る。

「とうちゃーっく!」
「とうちゃーっく!、じゃないよ、ななし。お前の負け」
「げ……、カカシせんせ。お早いお着きで」
「まあね。それより負けたんだから今日は大人しく引き返すこと」
「えー」
「えー、じゃないの。約束でしょ?はいバイバイ」
「ちっ、わたしかけっこ勝負はいつまで経っても勝てない気がするんだけど」
「お前が自分で得意なのはかけっこって言ったんでしょーよ。忍に二言はなし」

 ぱたり、と音を立ててカカシはせんせは卑猥な小説を閉じ腰のポーチにしまい込んだ。そしてそのままわたしに背を向け演習場から遠ざかっていく。わたしは急いでその背中を追いかけ、追い付いた。

「カカシせんせー、次はいつ帰ってくるの?」
「んー。ま、一、二週間てとこかな」
「二週間か。長いなあ」
「俺がいない間、ちゃんと鍛練しておきなよ。目を離すとすぐ怠けるんだから」
「ちゃんとやるよ。だから、次は連れていってくれる?」
「やーだよ」
「何で」
「だってななしはカカシ班じゃないし。それ以外で俺の任務はAランク以上しかないから、下忍のお前は出番無し」

 ばっさりと言い切られ、わたしは肩を落とす。カカシせんせーはそんなわたしを見て右の目を細めた。優しい目だ。
 わたしがカカシせんせーのことを知ったのは、本当に偶然的なものだった。下忍仲間との任務が終わり一人ぶらぶらと帰っていた所、同じように任務終わりだったカカシせんせーに出くわしたのだ。カカシせんせーは遠目に見ても分かるくらい血に濡れていて、だけどそれが彼本人のものでないこともすぐに分かった。
 わたしは急速に彼に惹かれた。カリスマ性に溢れた彼は、わたしをその一瞬で攫っていったのだ。こんな言い方は、恥ずかしいかもしれないけれど、本当にそう思った。
 それから毎日、わたしはカカシせんせーに付き纏っている。ナルト達と草むしりをしている所に突入しては怒られたり、たまには修業に付き合ってもらったりもした。
 そしてある日、わたしはカカシせんせーに頼み込んだのだ。一緒に任務へ連れていってほしい、と。カカシせんせーの返答は、もう分かっているだろう、ノーだった。

「じゃあさ、カカシせんせー。わたしが成長したら一緒に任務へ連れていってくれる?」
「んー、どうかな」
「え、成長しても駄目なの」
「うん。そだね、ななしは連れていけない」
「何で」
「……いずれ、分かるよ。忍は忍に情を持っちゃ終わってしまう」

 その時はカカシせんせーが何を言いたいのかさっぱり分からなかった。ただ、せんせーは相変わらずわたしを任務へ連れていってはくれなかったし、わたしはせんせーに纏わり続けていた。
 気付けば四年の月日が経ち、わたしは上忍へと昇格していた。


「暁がついに攻めてきたぞ!」
「何だって?」
「今は見張りの奴らと手の空いていた奴らで応戦している。配置につけ!」

 暁が里に入り込んだのは、わたしが上忍に昇格して間もないころだった。だからかもしれない。わたしはまだカカシ先生の言っていた答えが見つかってはいなかったのだ。
 わたしは、走りだした。他の者には目もくれず、ただカカシ先生を探した。辺り一面に聞こえる騒音は酷く不愉快で、わたしの探知能力を鈍らせた。
 アカデミーの近く、広く足場の崩れたその場所に、彼は佇んでいた。フラッシュバックする。あの日見た、彼の姿が。美しいと思う。わたしは援護も忘れてその姿に魅入った。
 そんなわたしは、名前を呼ばれて我に帰る。

「ななし」
「カ、」
「帰れ!」
「カシせん、せ?」
「早く逃げろ、手を出すな」
「何で」
「早く行け!」

 その言葉を皮きりに、わたしは走る。走る。走る。敵が放ったのだろうか、クナイに似た何かが頬を掠めた。それでも走る。走る。走る。もう自分が何をしたらいいのか何なのかどうしてなのか、疑問符ばかりが浮かんでは消えた。わたしはただ、見ていただけだ。しかしそれがいけなかったのかもしれない。分からない。怖い。速く、もっと速く進め。
 そしてわたしは出口の無い何処かへ向かう。答えとは、このことなのだろうか。
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