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今さらになって実感したのは、あいつが本当に行ってしまうということ。
そんなのは、あいつがこの学校に入学した時から、出会った時から、はじめて会話した時から分かっていたことだったのに、なぜか心は寂しいと泣いている。
数ヵ月前から卒業をカウントダウンし始めた教室の黒板。
悪戯書きみたいなきったない字で書いてあるカウントが確実に1日1日減っていくのを見ると、無理やりにでも戻してしまいたい衝動に駆られた。
これも全部、お前が動かすことなんだ。
多分、いや絶対にあいつは分かってねえだろうけど(1ヶ月分の給料……あ、やっぱ1000円賭けたっていい)俺は寂しいんだ。
この教室からいなくなってしまうという確かがひどく寂しい。
会えないわけじゃないけど、もう二度とお前は放課後に宿直室に苺牛乳を持って現れることは無いんだから。
授業中に居眠りしてて、大きな寝言言ったり、人一倍はしゃいで体育のバレーしたりするお前は、ないんだから。
当たり前のことなのに、とても寂しい。これも当たり前なことなのかもしれないけれど。
こんなにも切ない気持ちに、身体ついていかなくて、苦しい。
今すぐに会いたいと思った。

「青い、な」

(俺もまだ…)

心の中で苦笑する。
そしてその笑いと同時に耳に入ってくるスリッパの音。

「銀ちゃん…!」
「……よう、」
「今ね、みんなで写真撮ってるの!だから銀ちゃん呼びにき、」

最後の一文字は、言わせなかった。
目の前にいる未だ幼い少女を思い切り抱き締めた。
切なくて、苦しかった。

「銀ちゃん、だいじょうぶ?」
「ああ……でももう少し、…」
「うん」

言葉は続けられなかったけど、ちゃんと伝わっていた。
胸の中でゴソゴソと動いていた温かい彼女は、やがてジッと動かなくなった。
そして、口を開く。

「…銀ちゃん、卒業ありがとう。銀ちゃんに会えて楽しかったよ」
「ああ、」
「これからも、一緒にいようね」
「……ああ」

彼女はいつもと変わらない口調でそう言った。

なぁ、一つ聞いてもいいか?
俺たちがこの先もずっと一緒にいるとして、
いつかお前と過ごした今日までの時間も思い出とか、昔話になんのかな。
こんなにも寂しいのに、俺たちはまた今日までみてえに幸せになってくのか?。
そんなの、多分神様だってわかんねえだろうな。
だって作り上げていくのは俺たちなんだから。

でも、今はただ

「キス、してえ」
「…うん」

この時が最期にならないように。
そう願いを込めてキスをした。
俺を見上げたお前の顔は笑っていたから、ああ、幸せになれるんだな、と確信した。
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