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どうしてこうなったのだろうか、とかはなるべく考えないようにしようと思った。だけどこんな状況でそれを考えずにいられる人間なんていないわけで、私もまたその人間の内の一人だった。
ポケットには今もまだ重い重い鉛でできた物体が沈んでいる。
私は未だそれをうまく握ることもできない、のにも関わらず三日も生き残っている。
もうこれは強運以外の何者でもないな、なんて状況に合わない笑いを溢したりもした。
私はきっと最高の武器を手に入れたのだろう。これがあれば大方の奴等は殺せる。
でも殺そうなんて気にはなれなかった。特別思い入れのあるクラスなわけじゃないし、アイツ等みたいにバカやってたわけじゃないから、情は薄い。
けど自分のどこかでアイツ等を手にかけるのを止める自分がいる。そしてそのたびに、どうして……と考えるのだ。

「私の人生も、18で終わり、か」

自分が最後まで生き残れるだなんて思っていないわけで、いつかは死ぬんだろうと曖昧な未来予想をしながら私は今日も1日過ごしていた。
不思議だ。
人を殺すのを怖いと感じるのに、私は自分が死ぬのが怖くない。
この世に未練はたくさんあるのに。

ガサッ

木の葉か木の枝かを踏むような音がした、私はそちらに顔を向ける。
逃げる気は更々無かった。

「………」
「…お前、まだ生き残っておったのか」
「ヅラ……元気だった?」
「ヅラじゃない桂だ、大体こんな状況で元気だったかどうかを問うのはおかしくはないか?」
「さあ、どうかな?」

ゆっくりとこちらに近づいてくるヅラ。
別段怪しいモノも持っていなければ何かを企んでいるようにも見えない。
いつも通りだ。
だけど何となく私は嫌な感じがしてポケットの思い鉛に手を伸ばした。
今までまったく使う気も無かった、これからも使う気の無かったモノへと。

「お前はどうして生き残っていたのだ。誰かを殺めたのか?」
「冗談、…私そんな風に見える?」

喉の奥で笑って、目を細めてヅラを見た。
その私が見た人物は笑ってはいなかったけど。
私は表情そのままにこう問うてみた。

「そういえばさ、ヅラは武器何よ?てか誰か殺した?そりゃ殺したよね。制服汚れてるし」
「………武器はこの刀だ。人は殺してはおらん、これは襲ってきた輩から逃げる時に少々やりあっただけだ。それよりも見た所無傷のようだが、本当に誰にも会っていないのか」
「……んー、さっき山崎に会ったかな。死んでたけどね、刀で斬られてたよ」
「…………」
「ヅラもさー、山崎見たでしょ?ちょうどヅラが来た方向に倒れてたしね」
「……お前の武器は何だ?」

口元に弧を描く。
手をポケットから抜き取る。

ドガン

「……なっ……」
「鉄砲。使う気無かったんだけどね」
「な、ぜ俺を……?」
「……さあ」

使うつもりのなかった鉄砲取り出した理由は、私にも分からなかった。
ただ、殺したくなった。突然。

「…っす、き………、た」
「聞こえないよ、ヅラ」

どうしてこうなったかなんて考えられなくなった。
誰かを殺したいわけじゃなかった。
ただ、この男に騙されてあげたいと思った。
あなたは私を愛してたらしい。
今となっては何の意味もない話。
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