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俺はいつ死ぬかわかんねえから、お前を幸せにしてやることはできねえかもしれない。

と、それがいつしか俺の口癖のようになっていた。だが実際そうは思わないか?お前も分かっているだろう、俺は命を狙われる身なのだ。真選組の副長がどんな立場かわからねえ馬鹿ではねえだろ?
決して口に出すことはなく瞳だけで彼女にそれを伝えようとした。が、それは無理な試みだった。そりゃあそうだ、人間には言葉って便利なものがあるのだから、逆に言うならばその便利なものを使わないと伝わらないのだから。

「十四郎はいつも仮定で物事を語り、事を進めていくのね。それって戦場では通用しても恋愛では通用しないんじゃない」

彼女はそう言った。何てこった、この女すべてお見通しだってーのか。こりゃあ一本取られたぜ、俺もお前も存外原始的だっつーことか。いや、そんなことはどうでもよくてだな、つまり俺が言いたいのは俺はお前とは一緒になれねえってことさ。わかるか?

「幸せになれるとかなれないとか十四郎は何を計算してそんなことを言っているの?」
「じゃあテメェは俺と一緒になることの何処に幸せとやらを見出そうとしてんだ?」
「あらあなた、そんなことも分からないなんて存外頭が悪いのね」
「減らず口だけは達者なようだな。いいから質問に答えろ」

命令口調も治らないわね、あなたって本当に扱いにくい人。と彼女はそう溢した。それならば俺と一緒になりたいなどと言わなければいいじゃないか、と思ったがそれを言うとまた何か返されそうなので止めておいた。
一呼吸置いた後に、俺が目で"一体何なのだ"と問うと彼女はやはり俺の心を読んだかのように口を開く。

「単純なことよ、私はあなたといて幸せになれると思うから一緒になりたいのよ。幸せは自分で決める」
「……はは、成る程なぁ」
「あら、何かおかしなこと言った?笑われる覚えはないわ」
「そうかよ」

全くこの女は面白いな。成る程俺の立場や生死なんぞはどうでもいいって話か。好きだから一緒にいたい、なあ……確かに単純でいいかもしれねえ。俺もお前も原始的だと言うなら尚更だ。
ふっ、ともう一度鼻の奥で笑った後、女に向けた瞳の意味をどう受け取ったかはこの女次第であろう。
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