log | ナノ

どうして助けてくれなかったのよ、と女は叫んだ
女は昨日あったテロに巻き込まれて死んだ男の彼女、らしい
どうしてよ、どうしてよ、と彼女は俺の胸を叩き顔を叩いた
ジンジンとした痛みが頬の一点に集中して、きっと今そこは赤く染まっているのだろうと回らない頭で考えていた

「警察なんでしょ……何のための武装警察なのよ。あの人を返してよ」
「ごめんなせぇ」
「謝罪なんていらないから、お願いだから、早く」
「ごめん」

そこまで言った所で再び頬を思い切り叩かれた。
女の目からは涙が絶えることなく溢れ続けていて、その瞳は真っ直ぐと俺を見据えている。
そして俺は思い知らされる、何て無力なんだろうかと。
どうして人一人も守れないのだろうか、自分が生き延びる力はあるというのに。
幼い頃から神童と持て囃され、それに見合う剣の腕を俺は持っていて、警察という立場で、攘夷浪士からお上を守るのが仕事で……何より近藤さんを守り生きるってのが俺の使命で。

だけど俺は何も守れちゃいないんだ、そうしてまた大切な人を泣かせてしまう。
姉上だって、幸せだと言っていたけどきっともっと……。
こんなんじゃ、駄目なんだ。
何が駄目かとか理由を見つけて解決できるものじゃなくて、駄目なんだ。
後悔も懺悔もし足りない、だけどこれ以上傷つきたくない。
俺は、──

「警察は、人を守るのが仕事でしょう」
「ああ」
「大切な人を守りたいんでしょう」
「……ああ」
「じゃあちゃんと守ってみせてよ……わたしを捨てて選んだ道なんでしょ…総悟」

俺の名前を叫び彼女は泣き崩れてしまった。
どうして俺はいつも大切な人の幸せを奪ってしまうのだろう。
あの日、彼女を捨てた日に確かにたてた誓いは何処に行ってしまったのだろう。

もういい、もういいよ。
俺は疲れた、俺には誰かを守るなんて芸当はできない。
だから俺を殴って叩いて蹴り飛ばして突き飛ばして、何ならこの刀で刺せばいい。
気が済むまで殺してくれ、俺はそれで救われるから。
- ナノ -