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かぐやひめは、満月の夜に月の使者に連れられ月の都へと帰ってしまいました

「それが何だよ、……わざわざこんな所まで呼び出して」
「へへ、ちょっと話があってさ」

土方さんは不思議そうに問い、わたしを見つめる。その瞳はこの漆黒の闇、そして彼の隊服とまるで同じ色。
背中には大きな大きなお月様、照らされて表情を読み取ることは少し難しい。

「土方さんに拾ってもらって三年が経つの、毎日毎日お食事を貰って着る物を貰って安心して寝る場所を貰って、本当に感謝しています」
「ハッ……何で今さらんなこと言ってくんだよ」
「土方さん、わたし土方さんの側にい過ぎたみたいだよ
わたし土方さんのこと好きになったの」
「………ああ、知ってる」

その言葉にわたしは少し驚いた、きっと「ああ」と一言返されるだけだろうと思っていたから
不思議だな、逆光で分からないはずなのに土方さんは微笑んでるように見える
どうしてかな、少しだけ目の前が滲むの
嬉しいから?、それとも悲しいから?、分からないけど、分からないけどどんどんどんどん滲んでいく

「土方さん、わたしは駄目な奴なんです。土方さんのこと騙すつもりで近づいて、好きになっちゃったの」
「お前何言って、」
「わたし土方さんの敵なんです、わたしあなたを、殺す、ために、近づいたの……」
「………」
「ずっと、ずっと、真選組の情報、裏に流してて……。でも二年位前から、それ止めて、だってわたしは土方さんもみんなも好きになってたから。でもずっとそんなだったから、仲間が、土方さんを殺して早く戻ってこいって」

だけどやっぱりわたしに土方さんを殺せるはずもないの。
仲間を裏切って、真選組も裏切って、わたしの居場所は何処にもないけど、それを知らずに微笑んでくれる土方さんが唯一のわたしの心の居場所だった。

「土方さんを、殺せば、今までのこと無しにしてくれるって」
「……お前は、それを俺に言ってどうする気なんだよ、俺を殺すのか」

大きく大きく首を横に振った。
もう前なんか向いていられなくて、自分の足元を見つめて服の裾をぎゅうっと握った。

「土方さん、わたしは、土方さんを裏切って自分の場所に帰れるほど強くはないんです」
「……どうする気だ」
「土方さん、わたしは、……かぐやひめにはなれないです」

月からお迎えが来ても、わたしは愛した人を残して帰るようなことはしません。
だけどあなたの側にはいられないから、これはせめてものあなたへの懺悔です。

「さよなら」


結局俺の元からいなくなるのなら、そんなの自分勝手な月のお姫様と何ら変わりねえじゃないか
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