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外は真っ暗で、おてんとさんも隠れてる。そんな闇に紛れ混むなんて俺にはいとも容易いことだから、全てを誤魔化すようにお前を抱くのもいいと思ったんだ。



「おいバカ阿伏兎ー、ウーロン茶持ってこーい」
「……何で俺が部下に使われてんだ?」

ベッドの上に寝そべる女にそうぼやいてみるも、女は「ウーロン茶、ウーロン茶」と烏龍茶コールを始めるだけで、俺を労るだとかそんな様子はまるでない。オイオイ、おじさん何だか悲しいんだけど。
そう思いながらも、自室の冷蔵庫へ足を運び、グラスに氷を容れるサービスまでしてしまう俺は、コイツに甘いのだろう。そう、このまだ十代の娘に。

「これって犯罪だよなぁ。ロリコンだとは思ってなかったんだが」
「何言ってるの。阿伏兎は十分ロリコンでしょ。今もわたしにムラムラしてるんだろー、この変態め。
あ、とりあえずウーロン茶ちょうだい」

ベッドをギシリと軋ませて女は手を伸ばしてきたので、その手に汗をかいて水滴が付いたグラスを渡してやる。それを受け取ると、ありがとうと言ってガブガブと飲み始めた。色気も何もあったもんじゃあない。

「全くふざけてくれるなよ、小娘が。大人をからかうとロクなことないぞ」
「でも阿伏兎は大人である以前に男だもの。男をからかうのには慣れてるよ」
「末恐ろしいガキだね。いつか殺されるな、お前は」
「阿伏兎に?」
「いや、俺は共食いは好まんのでね。お前が遊んで捨ててきた男に殺されるんだろうよ」

微笑して、先ほど女のもののついでに注いだ自分の分の烏龍茶に手をかけた。そして一気に飲み干す。右手で口元を拭いながらふと女の方を見れば、やけに真剣な顔をしてこちらを見ている。

「どうした」
「……阿伏兎にとって、わたしは何」
「……その質問には答えかねるな」
「じゃあ、何でわたしを抱くの。何でわたしを自分の部屋に置くの。好きだから?」
「じゃあ聞くが、お前は何で俺に抱かれる。何で俺の側にいる。好きだからか?」
「好きだからよ」

そんな答えを聞くつもりでは無かった問いを、言ってから後悔した。なあ、そんなこと言われると、おじさんはもうやべーんだよ。身が持たないんだ。
もう朝が来るだろう?闇が光に飲まれれば、さあ、もう俺の誤魔化しは聞かない。
手元のグラスから垂れた滴はいつの間にか小さな水溜まりを作っていた。
何の返事もできず、固まってしまった俺を追い詰めるように、女は再び口を開く。

「わたしは阿伏兎が好き。阿伏兎がいるなら他の男なんかいらない。抱かれたくない、わたしは」
「やめろ」
「何で、わたしは本当に阿伏兎が好きなだけ……」
「言っただろう?大人はからかうのは止めろって。同時に大人を煽るのもよくないな」

ああ、残念。俺はどうやら欲に負けるみたいだ。もうお前が泣こうが喚こうが止められるだけの理性は持ち合わせちゃいねえ。
煽るんじゃねえよ、もう日が昇りかけてるんだ。誤魔化しが利かない今、お前をめちゃくちゃに抱いて、その言い訳はどうする。

心の中とは裏腹、俺は女に跨がり、その唇に食らい付いた。

「―――仕方ねえな。お前のために、おじさんは間違った道歩んでやるよ」

離した唇を耳元に近付け、そう囁けば女は頬を赤くして首後ろに手を回した。
カーテンの向こうは、すっかり明るい。
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