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団長に拾われた日から私は団長のものだった。それは自分の靴だとか枕だとかそういうものと同じような意味合いで、私は団長のものだった。

拾われたのは数年前、私がまだ幼かった頃の話。戦争で滅んだ家族と一族の中で、運が良いのか悪いのか一人生き残った私はまさに餓死寸前で骨になってしまった彼等の側にいた。
もうすぐ彼等の元へ行けるのだろうなあ、と思うと少し安心していたし死を当たり前のように受け入れていた。同時に、早く死んでしまいたいとも思ったが生憎自殺できるほどの体力は残っておらず指一本動かすのさえ億劫だった。

そんな生活が一変したのは、何処からともなく宇宙船がやってきた日のことだった。
荒野と化したこの国に舞い降りた船の中からはたくさんの天人と人間が出てきて、そして一人の少年―青年というにはまだ若かった―が私を見つけ、目の前で立ち止まった。

「ああ、生きてるのか」

穏やかな顔でそう声を掛けられた、はいいが私は何も返すことができず口を少しだけ動かしながら虚ろな目で彼を見つめた。綺麗な茶色い髪に白い肌をしていた。

「まるでボロ雑巾みたいだね、汚い。そんなになってまで生きることに意味はあるのかい」

聞かれても答えられない、彼はそれに気づいているだろうに訊ねてくる。私は口を動かすのも止め、ただひたすら彼を見つめた。

「どんなに武力を誇った一族だろうと、こんなものか。戦争ってのは下らないね。やるならやっぱり一対一が良い。そう思うだろう、お前も
ああ、それよりお前はどれくらい強かったのか――言えないだろうね。まあ餓鬼だから今の実力はたかが知れているだろうけど」

彼の瞳が唇が、弧を画いた。そしてゆっくりと薄れていく。もう目を開けていることさえ疲れたようだ。ああ、今私が死んだならこの男はどうするのだろう、などと冷静に考えてしまった。身体の力が抜けていき、漸く死ぬのだとそう感じた瞬間、誰かが私を力強く引っ張った。私の瞳が見開かれた。

「餓鬼といえど、あの一族の末裔だ。何れは強くなるかもしれない
そうしたらその時は、俺が殺してあげるよ。だからそれまでお前の命を拾っておくよ」

そう言うと彼は、とても死にかけている人間を扱うような動作では無く、荒々しく私を担ぎ上げた。
そして先程、舞い降りてきた宇宙船へと向かって歩き始めた。表情は窺えないがわらっているようなそんな気がした。

そしてあの日から私は団長の所有物になった。彼の喉が渇けばそれを潤したし、欲しがられたら身体をも渡した。それは苦しくなかった。辛くはなかった。元は一度死んだ身なのだから自分への執着も何もなかった。
しかし悲しかった。気まぐれに愛情を与えられることが酷く悲しかった。彼が春雨の中でも一、二を争うほどまでに強くなった私を殺そうとしないことに、おかしな考えまで抱いた。気づけば団長のことを愛していた。神威という人間に恐ろしいくらいに惹かれていた。

それでもやはり私は団長の物だった。それは自分の靴だとか枕だとかそういう物と同じような意味合いで、私は団長の物だった。
彼の気紛れで捨てられない私は、いつか彼の気紛れで捨てられるような気がした。
例えばこれが、私が愛されてるが故に、側に置いておきたいがために生かされてるのだとしたら
どんなにいいだろうか。私は彼の元を決して離れはしないのに。

団長がわたしを見てあの日のようにわらう時、わたしはいつもそう思うのです。
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