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「あのさ、俺の子産んでよ」
「は?」

神威がにこりと笑ってそんなことを言ったので私は思わず後退りした。手に持ったジャンプを放り捨てて。
神威が笑う時は大抵いいことがない(=四六時中いいことがない)

「あー……聞き間違いかな、だよね。うん、そうだ」
「何?聞こえなかったの?もう一回言おうか」
「いや、いいです。聞き間違いのままで」
「それって肯定って受け取っていいのかい?」
「いや、ない。うん。さっきのは聞き間違いだから神威は今おかしなことを言っている。絶対」
「分かってないみたいだからもう一度言うけど、ちゃんと聞いててよ。同じことを何回も言うのは好きじゃないんだ。──俺の子を産んでくれって言ったんだけど、産んでくれるよね」
「うぎゃっ、聞き間違いじゃなかった。やっぱ私の聴力侮れないな……じゃなくて、子ども産めって何それ」

そう聞きながらさらに一歩後退り。背中に襖が当たったのを確認すると、ばれないように後ろ手で戸のへこんだ部分に指をかけた。
これを言うのは二回目だけど、神威が笑う時は─特に今みたいな笑顔で─よくないことが起きる。
しかも今日は私が一番の被害者になる気がする直感。さっさと逃げたい。

「俺が思うに君は今まで会った女の中で一番強い。強い女なら強い子を産む可能性が高いだろ?俺との子なら尚更にだよ」
「いやいやいや、私は相当か弱いからね。転んだら腕が折れるような子だから」
「今までに俺に本気で殺されそうになって生き延びた女はいないんだよ。だから君は気に入ってる。」
「いや、ね。確かに死ななかったけど私あの時死にかけたよ。三途の川まで行ったから。それに強いって言うなら妹さんいるじゃん。夜兎の血も濃くなって一石二鳥ーみたいなね」
「俺に近親相姦の趣味はないよ。大丈夫、君より強い女がいたら解放するよ」
「すみませええん!阿伏兎さあああん!アナタの上司が無茶苦茶なこと言ってますよおお!」
「アイツなら今寝込んでるよ。神楽にやられたんだってさ、笑えるよね」
「ぜんっぜん笑えないわ。ごめん」

やばい、このままはやばい。これを言うのは三回目だけど神威が笑う時は(略)
まあいい、とりあえず逃げよう。ここにいるのが一番危ない。私は指に力を込めて、いち、に、さん、のタイミングで襖を開けた。
と思ったがお決まりのようにそれはかなわなかった。何故ならば私の着物は綺麗に神威の放った簪によって襖に縫いとめられたからだ。そんなバカな。

「神威、ほら、やっぱ子どもってのはアイシテル人のを産みたいよねっ」
「知らないよ、そんな都合」
「でもさ、愛は大事だよ、うん。だって人は愛されるために生まれてくるんだから。ね」
「ふーん。じゃあ君が俺を愛せばいいんじゃないの?」

そう言って神威はにこりと笑った。何度も言うが、神威が(略)

ほら、よくないことが起きたじゃないか。
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