ハナサキ | ナノ

※部活後


「帰るで、花」
「おん。あ、あかん。タオル、コートに忘れてきてしもた」
「はあ?とっろいなあお前。明日でええやろ」
「嫌やわ、あれお気に入りやもん。盗られたら泣く」
「誰もお前のくっさいタオルなんて盗らんっちゅーねん」
「謙也お前そんなん言うとってタオルなかったらほんましばくでな。市中引き回しの上エクスタシーの刑や」
「打首にせえや!いや、ようないけどエクスタシーの刑とか絶対嫌やわ!ちゅーかどんな刑やねん」
「蔵から二時間お説教。そん中にちょこちょこエクスタシーて挟まれる」
「うわうっざっ!まじうっざっ!」
「やろ?打首以上の苦痛や」
「ああ最悪や。ちゅーかその前にお前タオルはどうしたんや」
「…いっけネ」
「コツンやってもかわいない。さっさとしいや」
「フンッ、言われへんでも行くわアホ謙也。へたれ」
「…何でそこまで言われなあかんのや俺」
「謙也やからな」
「早よせい言うたやろ」
「何やねんお前。鬱陶しい」
「こっちの台詞やっちゅーねん」




「あー、タオルどこやねん。この辺りに置いとった思うんやけどな…」

ターン
ターン

「ん?…なんでボールの音すんねやろ。みんな帰ったはずやんなあ。ちゅーかわたし誰に向かってしゃべっとる?」

居残り練やろか。誰やろ。謙也やないことだけは確かやけどなー…気になるな。あっちのコート行ってみよかな。
ちゅーかほんまわたし独り言でかっ!誰に話してんねやろきもっ!

あ、ボールの音がだんだん近なってきた。

ターン
ターン

「…っ、もう一球や」
「…蔵、やんな?」
「…はっ…!」
「気付いてへんし」

音の主は、なんと我が従兄、白石蔵ノ介やった。部活終わっとるんやにようやるなあ。蔵のコートの辺りにはテニスボールが大量に転がっとる。
こいつ、休憩はさまずにこんなけやっとるんかい。体壊すっちゅーねん。

「…待っとったるか」

ぽつりと呟いてフェンスの前に座り、誰もおらんテニスコートにボールをたたき込む蔵のことを見てた。あ、そういえば謙也どないしよ。…まあええか、どうせ謙也やし。そのうち帰るやろしな。
ちゅーか、それより寒い。蔵、半袖半ズボンて最強やな、最強の意味分からんけど。

「…ぐしゅっ、…あー」
「? 花、何でおんねや」
「あ、気付いた。遅いわ、こんな可愛い女の子が視線浴びせとったんやどー」
「可愛い女の子?そんなんおったんか、それは惜しいことしたわ」
「わたしや、わたし」
「タワシ?タワシのどこが可愛いねん」
「わたしや言うとるやろしょうもないボケすな!」
「すまんすまん、クララお茶目やからな」
「…ちゅーかいつからここおったん。寒いやろ」
「俺、動いとるし。花こそなんでこないなとこおんねや」
「タオル取りにきただけや、見つからんけどな」
「タオル…?ああ、あの汚い布切れか。一瞬、ゴミ箱捨てたろ思ったで」
「はあ?何してくれてんねや!」
「まあまあ話はちゃんと聞きなさい。思った、言うたやろ。お前のタオルはご健在やで」
「あ、あった!わたしのヒョウ柄タオル」
「ちゅーかどんな趣味やねん」
「かわええやろ、ヒョウ柄。金ちゃん大絶賛」
「大阪のおばちゃんみたいやで」
「…でいっ!」
「うわっ、危な!お前鞄は中身によっては凶器になるんやぞ!」
「心配せんでも辞書が五個くらい入っとるだけや」
「多ッ!」
「国語辞典、和英辞書、英和辞書、スペイン語のなんかとフランス語」
「お前どんだけ国際的やねん!」
「グローバルですから」
「もっと違うところでグローバルしいや」

「……ちゅーかさ、蔵まだ帰らへんの」
「何や、一緒に帰りたいんか」
「ちゃうわ、でももう暗いやんな。ボール見えへんかと思って」
「せやな、ここ片付けたら帰るわ。お前タオル取りに来たんやろ?謙也待たせとるとちゃうん」
「謙也はもう帰った(と思う)で。蔵、タオル取って」
「おーはいはい。…それ、もう忘れ物ないな」
「ない」
「ほなさいなら。謙也によろしゅう」
「はあ?何言うてるん」
「こっから謙也の金髪見えるし」
「お前どんだけ視力いいんや!…やのうてアレや、うん」
「…何があれ?」

「……」
「…ちょ、お前、フェンスに制服でよじ登るアホがどこにおんねや」
「ここや……よっと」
「何してんねん、自分」
「…マネージャー職務?」
「……」
「…球拾いならお手のもんや。蔵は早よ着替えてき」
「何やお前、…今日気持ち悪いな」
「何やと!」
「嘘や、おおきに」
「…ようできたマネージャーさんやってみんなに言うとき」
「せやな、考えとくわ」



「謙也!待たせた」
「待たせすぎやろどアホ!何回帰ろ思うたか…て何で白石おんの?忘れ物白石?」
「アホ言うな、たまたま出会ったんや」
「それにしても謙也の金髪目立つなあ」
「アホみたいな色やからな」
「大仏様と同じ色やからな」
「何やねんお前ら。もう置いて帰ればよかったんや〜」
「残念やったね謙也。せや、謙也も今日蔵んちでご飯食べてき」
「何で花が決めんねや」
「今日おばさんらおらんでわたし家事頼まれとるんよ」
「お前それは俺への死刑宣告か」
「何言うとんの、わたし得意科目は技家やで」
「こいつの飯うまいで、謙也」
「え、ほんまかいそれ」
「騙されたと思って、食べてみてください」
「フリーダイヤルのノリやな」
「ちゅーか、どうせなら小春やユウジも呼んだろ。明日休みやし」
「ほな金ちゃんらも呼ぶか」
「財前呼ぶなよ」
「差別はいかんで〜」
「まあええわ。今日は何やマネージャー精神やねん」
「…ほう、それはいいこっちゃ」
「どしたん突然」
「んー、別に…でも」
「…?」
「どしたんよ」

「やっぱ蔵は部長やねんな」

言うと、当たり前やろ、と頭をどつかれた。

「あー、今日夕飯何しよ」
「俺、カツ食いたいわ」
「何でカツ?」
「カツ食って春予選に勝つ!っちゅーこっちゃな」
「お前、良え雰囲気を親父ギャグで壊すなや」
「ちゅーかこれがオチなんか」
「これがオチや」


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