ハナサキ | ナノ


先輩と手を繋いで帰るようになった。いまだに恥ずかしがって俺に気付かれないように(本当は気付いているけど)照れる姿とかかわいすぎると思う。彼女馬鹿?そんなんちゃうし。普通の感情やろ、まあ言わへんけど。
そんな俺やけど、最近一つ気に食わないことがある。


「花〜、今日のおやつたこ焼きにしてなあ」
「はあ?たこ焼き昨日も一昨日も食べたやん。ええ加減に飽きたっちゅーねん金ちゃん」
「え〜たこ焼き食べたい〜」
「そう言うてもなあ…今日のおやつ予定表では何なん?」
「ぜんざい」
「よっしゃ金ちゃん、それはたこ焼きにしよ」
「やったあー!!花大好きやわあ」
「ほんまに?わたしも金ちゃんのこと自分の次に好きやわあ」
「………」




「あんら花ちゃん、なんか今日いつもと雰囲気違わへん?」
「そうか?俺には一緒に見える」
「小春気付いたー?実は昨日、モデルのゆいちゃんプロデュースしとるまつげ買ってん。どうしても付けたなって今日化粧してきてもうたわ。ユウジ黙れ」
「何やと…!」
「やっぱり?よう似合ってはるわあ」
「んふふふー、このせいで今日生徒指導のゴリが追いかけ回してくんねーん」
「シカトすな。ちゅうか似合ってへんし。小春のが百万倍似合うし」
「ああ、校長先生らはゆるいのにあのゴリラだけはうるさいわな〜」
「ほんまやわ。可愛くなろうと言う女の子の努力を何やと思ってんねや。ユウジ消えて」
「な、何やと…!自分ブサイクのくせにいきがっとんなや!」
「あー、差別発言やー、ユウジさいってーやなあ。なあ小春?」
「くせにっていう言い方はよろしないで、ユウくん」
「こ、小春まで…」
「ふん、小春はいつでもわたしの味方やねん。ざまみろ」
「小春は俺だけのフェアリーや!なあ小春?」
「ワテは花ちゃんの親友やわ」
「……!」
「へっ。さあ小春、部活行こか」
「そうしましょか」




「花〜」
「あ、千歳。今日いてるんや、めずらしいなあ。下駄降るんちゃう?重さ六キロや」
「六キロの鉄下駄ば降りよったら血だらけになるばい」
「ほんなら何やねん。ちゅうか重い、千歳は自分のでかさ分かってへんやろ、つぶれるっちゅーねん」
「なあ花、うっちゃって〜」
「はあ?打っちゃって?ちょお千歳、まさかのどM発言止めてや。残念すぎる」
「ハハハ、やっぱ伝わらんかったな。今のはかまって、って意味ばい。暇しとっと」
「へえ、なるほどなあ。これでわたしもまた一歩熊本人に近づいた気するわ。ちゅうか暇しとるって千歳、部活はどないしたん?」
「その質問はそっくり花に返すばい」
「……へへへへー!」




「けーんーやー」
「んー…おわっ、いきなし何すんねんアホ」
「愛情表現や。大好きやで謙也きゅ〜ん」
「きっしょ…ほんま意味わから…うぉっ、こ、これは…」
「ああ光やん」
「ちわっ。ほんで、さいなら謙也さん」
「くびっくびくびくび…」
「ほんま光は謙也のことシメんの好きやなあ、うんうん」
「うんうんやあらへん!まじ、うえっ…」

ただ今俺に首を絞められ死にそうになってはるんは我がテニス部の三年、忍足謙也先輩だ。まあそんな紹介はどうでもええねんけど、…。ああ、ほんま気に入らん。腹立つ。
じろりと先輩の方を見ると、先輩は死にかけの謙也さんにくっついて笑ってはった。…はあ、これや。これのせいで俺は憂鬱やねん。

「光ー、謙也が限界突破したわ」
「ええんちゃいます?」
「いやあ、わたしもさすがに後輩が人殺しやいうんは嫌やわあ」
「……ちっ」
「(こ、こいつ舌打ちした…!)」

仕方なく謙也さんの首から手を外した。あー、ほんま気絶すればよかったんやこの人。
相変わらず先輩は謙也さんにべたべたくっついとる。この人が確かに謙也さんや金太郎や小春先輩や千歳先輩と仲良いんは知っとる。せやけど、だからと言って彼氏がおるんに他の男と抱き合ったりせえへんやろ!普通は!まああの人が普通やないんかもしらんけど!

(さっきの回想は、実は全て先輩が他の男?といちゃついとるシーンなんや)

「あ〜、死ぬか思ったわ」
「俺は殺してやろ思って絞めました」
「こっわっ!花しっかりしつけえや」
「しつける言うてもわたしこんなペットいらへんし」
「俺かてペットちゃいますわ」
「…ああ、もうなんかええわ。俺が間違ってた」
「何やねん謙也。いきなし気持ちわるう〜い」
「きもいっスわ」
「何とでも言い。ちゅうかとりあえず花は離れや」
「ええ〜いけずやな〜」
「ほら、早よどけ。俺はもう帰る」
「んーむ」
「…はあ、また明日相手したるから。財前も迎えにきてくれたんやろ」
「迎え…なあ」

先輩がちらりと俺の方を見て、それから渋々謙也さんの背中から離れた。「あー、重かった」謙也さんは先輩が離れたのを確認して、鞄を引っ掴むとさっさと教室を去っていく。去りぎわに先輩に何やら耳打ちしとったみたいやけど、俺には聞こえへんかった。むかつく。

「……謙也さんに何て言われたんや」
「光には関係ないことやわ」
「……」
「ひ、ひぎゃいひぎゃい、なにひゅんねんひかる」
「不細工ですわ」
「ひゃっ…だ、誰のせいやボケ!あー痛…」
「先輩て、ほんま性格悪いな」
「それ光に言われたない台詞ナンバーワンやで」
「褒め言葉っスわ」
「褒めてへん」
「……」
「いだだだだ、だから何やねん!口で言いや、自分!!」
「…分かれや、アホ」
「アーン?誰に向かって口聞いとんの。俺様はキングやで?」
「誰の真似や」
「アトベ」
「似てへん」
「せやろな」
「……なあ先輩」
「なに?」
「…何でもないっスわ」
「んー。どないしたん光。つねったり撫でたり意味分からんわ。猟奇的やな」
「猟奇的の意味分かって言うてはる?」
「……」
「ほんま、アホやなあ」

自分でも不思議なくらい自然に顔が綻んだ。なあ先輩、あんた何でそないに小さいの。そないに小さいくせに、何でこないに大きいの。
俺は先輩のことになるとどうしようもないくらいガキになるんやで?ただの友達やって分かってても抱きついとるん見たら腹立つし、八つ当たりもしてまう。なあ先輩、気付いて。俺、プライド高いしガキやから言えへんねん。嫉妬しとるガキやって思われたないねん。

「…なあ光」
「なに」
「光は、背え高いなあ。金ちゃんなんてわたしより低いし」
「そら、金太郎よりは高ないとおかしいやろ」
「でも、千歳と違って頭にちゃんと手届くねん」
「は?」
「謙也の髪の毛はな、色抜きすぎて手触り悪いんよ。光もツンツンしとるけど」
「なに…」
「…わたし、光が一番いいねん」
「……っ」

俺の髪に触れる先輩の細い手首を引き寄せて、そのまま腕に閉じ込めた。やっぱり先輩は小さい。小さくて柔らかくてあったかい。体温の低い俺には、それが気持ちいい。
先輩はしばらく腕の中でもごもごと動いてたけど、離れへんようにずっと抱きしめとったらそのうち静かになって、俺に身をまかせてくれた。

「…先輩」
「…なに?」
「  」

そっと頬を寄せて、聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟いた。絶対に聞こえてないやろうと思ったんやに、先輩が俺の背中に手を回すもんだから、また愛しくなった。


抱きしめる


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