ハナサキ | ナノ


「花聞いてえや!」
「な、何なんいきなし。パンツ忘れたんか」
「パンツは履いとるわあ。でもパンツ脱がせる役目ん人おらんくなってもうた」
「朝っぱらから何ハレンチなこと言うてんの自分、ほんまかないませんわ〜」
「ハレンチちゃうわ。あんな、昨日光にフられてん。嫌や言うたけど、すまんしか言わへんし。やっぱ花の言うとおりやってん」
「…ほ、ほ〜らみい、わたしの言うたこと聞かへんからや…」

朝イチで友達にそう言われてかなり動揺した。…何やねんあいつ。もう彼女フらへんとか言うとって、大嘘やないかい。

「花、カタキうってくれへんの?」
「何でわたしが」
「せやかて、今までは話聞いたら飛んでっとったやん。カタキうってや〜」
「…せやな、ほなあの財前ざいんことどつきに行ってこよかな」
「さすが花や!」
「おん、一限は遅刻や言うといて」
「任しとき」


…とは言いましたが、実際、財前に会いに行くはずもないっちゅー話やな。


「サボり決定ー、ええ天気や」

ごろん、と寝転がったコンクリートか暖かかった。自然のレッドカーペットやな!…間違うた。自然のホットカーペットや。素で間違えたんを一人で直すて思うたより痛いな。謙也も誘ってこれば良かった…って、あかんか。

「…前は、ようサボりに来ててんけどな」

さっぱり来てなかったわ。やっぱ、何やかんや財前やったでやろな。何やかんや財前の意味が分からんけどな。
ごろん、寝返りをうつと同時に屋上の扉が鳴いた。仰向けんなっとったわたしは、眩しかったから腕で目を覆っとった。スリッパのペタペタという音が、近づいてきて止まる。

「……」
「……花先輩」
「…サボりはあかんで。財前くん」
「絶対、おると思ってん」
「そうか、聞いてへん」
「…なあ先輩、顔上げえや」
「彼女、もうフらんのと違ごうたん?」
「そうっスね…」
「財前は嘘つきやな」
「心外ですわ。それにもう俺、フッたりせえへんし」
「口では何とでも言えるし?」
「ほんまですよ。俺、もう花先輩以外の人と付き合わへんし」
「……」
「先輩、好きですわ」
「……知らへんよ」
「ほんまに好き、好きなんは先輩だけです」
「……」
「なあ先輩、こっち見いや」

目を覆った腕ごしにも、影ができたのが分かった。きっと財前がそこにおるからや。何や、泣きそうやし。

「好き」
「嫌や」
「顔上げ、言うとるやん」
「無理」
「ほな、もう知らん」
「知らんて、何や……、っ」
「生意気や言われてももう離さへんよ。俺、生意気やもん」
「ほんまに、離して。言うたやん、あかんて…」
「無理やりにでも引き寄せろ言うてどついたのは先輩ですわ」
「分かっとるよ、分かっとるけど離して」

財前の手が、わたしの右腕を掴んで、ゆっくり引き離した。眩しゅうなってちかちかする視界には、財前がおった。

「……顔、真っ赤ですやん」
「誰が、パプリカやねん…」
「そんなん言うてへんよ、先輩かわええ」
「…そういう、こと、普通に言わんといてや…。ほんま財前やないし、こんなん」
「…好きやから、ほんまに。俺も自分きもいと思いますわ」
「ほな、いい加減離してな。…わたし、死ぬ言うたやん…」
「先輩そない脆ないやろ」
「…心臓が、どきどきして、死ぬ言うとるんよ!」

財前の耳元で、思いっきり叫んだ。財前は、一瞬耳を押さえて顔を歪ませたあと、わたしのこと見てほんまに嬉しそうに幸せそうに笑った。また、泣きたなった。

「先輩、好きや」
「…知っとるよ」
「ほんまに好き」
「知っとるって言うてるやん」
「好き」
「財前」
「好き」
「財、前!」
「先輩も、俺んこと好きやんな」
「……っ、財前」
「なあ、言うてよ先輩。お願いやから」

ぎゅっと瞑った目の向こう側で、財前があんまり切ない声を出すから、わたしは両手を伸ばして太陽を隠すようにあった財前の頭を引き寄せた。

「財前…」
「はい」
「…好き、や」
「俺も…」

好き。そう言うた財前の声はいつもの生意気な声でも女を落とすために使う色気のある声でもなくて、ほんまに中二の十四歳らしい男の子の声やった。
生意気で、むかついて、女たらしで、二年やのにテニス部レギュラーで、ピアスしとって、後輩で、わたしのことがアホみたいに好きで。そんな腕の中のこいつのことを、死ぬほど愛しく思った。好きやよ、光。


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