ハナサキ | ナノ

「なあ財前」
「何すか謙也さん」
「花とうまくいっとんの?」
「…死にたいんすか、謙也さん」
「はあ?何でや、俺今何か悪いこと言うた?」
「これやから頭の内容量少ない人は嫌なんすわ。どっか行ってくれます?」
「な、何やねん財前!せっかくいいお知らせやったんやにもうええわ……って何すんねや、引っ張んな!」
「…いい知らせって何や」
「……聞きたいんか」
「ええから早よ言え忍足」
「…俺、先輩やんなあ」
「そうでしたっけ?で?」
「……花な、多分お前のこと好きやで?」
「……は?」
「は?って何やねん。うれしないんか」
「それ、誰が言ったんや。確証ないこと言わんでくれます?」
「何やねんそれ。まあ好きやとは言うてなかったけど、あれはもう好き言うとるようなもんやし」
「花先輩、何か言うたんか!」
「ちょお財前近いわ、きもい!…、ちゅーか花に相談されたんや」
「何て?」
「あ?」
「花先輩、何て言わはったん?」
「…財前、キャラ違いすぎやろ。こっわ…」
「恋愛にキャラとかいらんねん。ちゅーか聞いとるんやから早よ言えや」
「あ、元に戻った。…あー、まあアレや。謙也どないしよー、みたいなな」
「どないしよー、ってどういうことですのん」
「そりゃ、そんままの意味やろ。なんや女の子みたいになっとったで、あいつ」
「……」
「…あいつな」
「……」
「俺や白石のこと好きやねん」
「…自慢のつもりで言うてんのならどつきますよ」
「お前と付き合うことなって、俺や白石とおれんようになるんが嫌や言うとったわ」
「…何やそれ」
「もう好きや言うとるようなもんやろ?」
「…先輩、今どこにおる?」
「一緒に帰る予定やから、下駄箱らへんにおるんちゃう?」
「今日、先輩借りてええ?」
「好きにしい」
「すんません、…おおきに」
「フられても俺にあたんなよ」
「アホ言わんでください」


ちゅーんが、十数分前の話やってんけど、何やこれ。


「こ、こっち来んといてざーいぜーんざーい!」
「……はあ」
「何でため息ついとん!つきたいんはわたしの方や。ちゅーか、手離せぼけ!」
「離したら先輩逃げはるやろ?」
「そんなん、当たり前やん」
「ほな、離しません」
「嫌や、離せ」
「無理」
「離せ言うとんや、先輩命令やぞ」
「あんたのこと先輩や思ったことないわ」
「失礼すぎやろ、お前ほんまいい加減にしいや!」
「先輩!」
「…っ」
「なあ先輩」
「……離してや」
「嫌や。…なあ先輩、先輩は俺のこと嫌いですのん?」
「き、嫌いや」
「ほんまに言うてます?」
「わ、わたしが嘘つくような奴に見えるん?」
「見えますわ」
「そんなアホな…!やのうて、ほんま堪忍して、財前」
「光や言うたやろ」
「……光、離して。死にそうやわ」
「こんなで死ぬとか自分どんだけ脆いんですか」
「そ、そういう意味やないねん。とにかくもう止めてえや…」

俺は先輩の手を離した。先輩の俯いた頭を見とったら、なんやもうあかん気がしたから。
謙也さんは八つ当たりすな言うてたけど、無理やな。めっちゃ嫌がらせしたるわ。それくらい許されるやろ。

「…先輩、顔上げえや」
「…無理や」
「…もう、好きも言わんから。手だって掴まんし彼女振ったりもせえへん」
「ざいぜ…」
「嫌いでもええよ。そん代わり、今までみたいに嫌いや言うてアホしとってください」

言いたくもない言葉が、次々音になってこぼれた。俺よりずっと小さい先輩は相変わらず俯いとって、さらに小さく見える。
なあ先輩、俺んこと嫌いなら何で俯いてはるん?早よ、顔上げえや。


「……自分、」
「……」
「…自分、アホやろ」
「……何言うて……いだっ」

バチン、とすばらしい音が響いた。

「財前のくせに、名前で呼べとか離さへんとか生意気やねん!」
「なに…」
「お前そない可愛らしい男ちゃうやろ!もっと生意気で腹立ってむかついて彼女んことすぐに振る最低男ちゃうんか!」
「いや、それは言い過ぎっスわ」
「言い過ぎちゃうねん!何やねん、好きや言うて人の頭こんがらせといて、今度は嫌いでもええ?元からお前のことなんか嫌いやボケーカスー」
「ちょおそれ絶対言い過ぎやわ。人がどんな思いで言うたと思っとんねん!第一、先に流そうとしたんは先輩の方やろ!」
「おおそうや!お前んこと大嫌いやったからな!」
「ならもうええやろ、放っておけやこのアホ女!」
「……っ、アホボケカス死ね財前!!!」
「…、いっだ!お前どこの世界にグーで殴る女がおんねん!」
「ここにおるわー、よう見ときー!」
「何で威張っとるんか意味わからんわ!」

「財前!」
「…なんや、もううっといで早よせえや」
「ほんまに好きならな、嫌いや言われても、好きや言うて引き寄せて無理やり唇奪ってにゃんにゃんするくらいの度胸見せや、こんどアホ!死!」

誰もおらん下駄箱。アホみたいに叫び倒した花先輩は俺に向かって思いっきり鞄を投げつけた。よけられんかった俺は、腹に重い衝撃を受けて思わず前のめりになる。そんな俺を放置して、先輩は落ちた鞄を拾うと玄関から出て行ってしまった。
唇奪ってって…驚きすぎて何も言えへんっちゅーねん。

- ナノ -