ハナサキ | ナノ


先輩はいつも、俺がどんなに好きや言うても『それはよかったな』ってふざけて言わはるのに、何故かあの日は違ったんや。

『なに言うてんの』

らしくなく覇気のない震えた声で、小さくそう呟くもんやから、俺は困った。困ったし、腕の中でしおらしゅうなった先輩が可愛くて可愛くてしゃあなかった。これ以上、先輩が何か言うたら少しでも腕ん中で動いたら先輩に触れたら、もう何もかも駄目になって死んでしまうような気さえして、誤魔化した。目を見開いて『はあ?』言うた先輩の顔が、忘れられん。

そしてあの日から、先輩とはしゃべってへん。俺が彼女振ろうが何しようが、先輩はやって来なかった。




「花。財前と喧嘩でもしたんかい」
「…なんや謙也、棒から藪に」
「藪から棒を出してくれ。なんや、財前にな『先輩どないしてます?』て聞かれてな。いつも通りや〜答えたけど、よう考えたらお前元気ないやん」
「元気ありありですわ〜マッスルマッスル」
「どこが元気ありありやねん。なしなしやろ。ほでマッスルて何や」
「謙也こそなしなしって何や。つまらんこと言わんでー」
「お前が言い出したんやろ!どアホウ」
「……」
「……」
「……」
「…何で黙るんや」
「なあ、謙也…」
「何やねん」
「財前光は…わたしのこと好きやん」
「なんや、気づいとったんか」
「あんだけ好きや言われたら猿でも謙也でも気付くっちゅーねん」
「お前それどういう意味や」
「ほんでな、この前も何やかんやあって、好き言われたんやわ」
「おーい、シカトすなー」
「わたし、いつもみたいに『そうか』て言えへんかったんよ」
「……おう」
「あいつ、じゃがりこ好きや言いだすし」
「(じゃがりこ…?)うん」
「離れてくれへんし」
「……」
「…謙也ー、どないしよー」
「どないしよ言われてもな、お前はどうやねん」
「どうって何が」
「財前のこと好きなん?」
「…嫌いやわ」
「……」
「しばらく前までは」
「今は?」
「今は…よう分からん」
「鬱陶しいやっちゃなー」
「もし財前光のこと好きで付き合うことになったら今までとはなんや違くなんねやろ?そんなん嫌やわ」
「?」
「わたし、学校の行き帰りは蔵や謙也としたいし、オフの日は友達と遊びたいもん。部活中やってそうや」
「お前そない俺のこと好きやったんか」
「あー、もー好きやー謙也ー。なめこの次に好きやー」
「俺あないぬるっとしたもんに負けたんかい!」
「でも、…おん。何やウジウジすんのは性に合わんわ。そろそろ嫌なってきた。放り投げてええ?」
「お前なー、今放り投げたら」
「この椅子の話やけど」
「あぶなっ!何放り投げようとしてんねんどアホ!」
「イラッとしたんよ。八つ当たり上等やわ」
「頼むから俺に当たらんといてくれ」
「それよりわたしどうしたらいいねん!」
「知らん!自分で考えや!」
「……」
「……」
「…あかん、やっぱ無理やわ」
「考えるん早っ!自分もうちょいしゃんとせえや!」
「あかんもん、ほんまわたしあかん!わたしめっちゃ財前光嫌いやったんなあ?なあ謙也!」
「あの嫌い方は異常ってくらいに嫌っとったな」
「やんなあ?何やに…」
「…?」
「何やねん、あいつ」
「何がや」
「…あいつ、かっこええやん、な…」
「……」
「……」
「…ぷっ」
「しばく!ほんま死なす謙也!」
「いや、ほんま悪い。今のはちょお油断したんや」
「油断すな!お前なんかテヅカくんに吸い込まれたらええんや!テヅカゾーン!!」 
「あー、分かった分かった。ほな花は今言うたこと全部財前に言えばええやろ?」
「無理やわアホー。第一、あいつ最近部活終わったらすぐ帰るし、わたしメアドも知らへんもん!」
「俺がメアドくらい教えたるわ」
「い、いらんし。そんなん…」
「ほな教えへんけど」
「…うん」
「自分、ほんま素直やないなあ」
「謙也相手に素直になってどうすんの」
「ほな、財前相手に素直になったればええやん」
「わたし自分めっちゃ素直やと思うててんけど」
「勘違いや」
「そうか…。素直になあ…」
「せや、早よせな青春なんてあっという間やで?それこそ浪花のスピードスターや」
「謙也、ほんまうざいなあ」
「お前せっかく相談のってやっとんのに…」
「うそうそ。愛しとるで、謙也」
「うれしない」

「なあ、謙也」
「…どしたん」
「謙也は、ずっとわたしのマブダチでおってな」
「…当たり前やろ、ボケ」
「約束破ったら末代まで呪うからな。生まれ変わってもまだ呪ったるわ」
「軽く脅迫やろ、それ」
「なあ謙也」
「やから、何やねん!一回でしゃべれや」
「わたし…謙也のこと、ほんまに好きやで。なめこよりも」
「…当たり前やろ、ボケ」
「……せやな」


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