ハナサキ | ナノ


「いったー…」

頭を抱えて目を覚ました。今何時や、ちゅーかめっちゃ頭痛い。わたしなんかしたっけ?えーと……。
そこまで考えて起き上がろ思たら逆に固まった。何でかて?そんなもん、目覚めてそん脇にコブラとかライオンとか天敵おったら固まるやろ。つまりは、携帯ぽちぽちしとる財前がおった。

「ふ、不法侵入や出てけー!」
「何や、目え覚めて恩人に言う第一声がそれですか?」
「お、恩人て何や。ちゅーか携帯しまい!携帯禁止制やで、この部屋は」
「千歳先輩に頭ガーンぶつけられて気失った先輩を、わざわざ運んできてやったんやないスか。ほんま重くてかなわんかったわ」
「そこで何で財前やねん。それになー、千歳はわたしのことフェアリーみたいに軽い言うてくれたで!この財前ざい!」
「フェアリーは言うてないやろ。たまたま居合わせたんスわ」
「たまたまて…せや!元はと言えばあんたのせいやで!タオル放りやがって…!」
「取れたんやで結果オーライやろ。それより先輩、言うことないんですか?」
「はあ?」
「俺、運んできてやったんですよ。お礼ないんか」
「あると思っとることに花びっくりや。もう早よ出てき!財前おると治るもんも治らん」
「……じゃあ出てきますわ。お大事に」
「せや、シッシッ」
「俺、犬ちゃいますよ」
「お前はあんなかわいない。従順でもないしな。あ、ドアはそこやで」
「知ってますわ。ほな」
「おん、気を付けや〜…て何でやねん!」

わたしのツッコミと共に、ドアが閉まって財前が消えた。ふう、これでようやく悪霊退散やな。
ちゅーか、さっきから何やデコに違和感あんねけど何やろ。
右手で、そろりと自分のふくらんだデコを触った。すると、肌とはなんや違う感触。ぺたぺたと触って確認すると、それは冷えピタシートやった。

「これも、財前やってくれたんかな…」

ふ、とベッド脇に視線を落とすと、そこにはわたしの好きなアセロラジュースとじゃがりこのじゃがバター味がコンビニの袋に入って置いてあった。これも、あいつなんか?あいつやんな…。
突然、申し訳ない気持ちに教われて、わたしは窓際まで駆け寄った。がらっと派手に音を立ててそれを開けると身を乗り出す。するとちょうど玄関を出て帰ろうとしとる財前の姿を発見した。

「…財前!財前財前財前ざい!」

あー、もう、聞こえへんのかあのアホウ。音楽ばっか聞いとるからや…!

「財前、財前て呼んどるやろボケカス!…財前、わたしが悪かったわ」

まだ聞こえへんのか、財前は振り返りもせず歩いていく。

「財前、……光!」
「!」
「やっと気付いたわ、…お前耳悪いねん!」
「…聞こえとるに決まっとるやろ、近所迷惑じゃボケ」
「何か言ったー?」
「言うてへんわー!」
「…冷えピタ、ありがとうな」
「はあ?聞こえませんわ」
「…やから!…あー、もう!聞こえへんのやったら聞こえるとこまでお前が来いや。近所迷惑やねん」
「今ごろ気付くとか先輩遅いっスわ」
「やかましいわ!もう、早よ戻ってきいや。…しゃあないで、花さんが夕飯ご馳走したる」
「先輩、作れるんスかー?」
「作れるわボケ、寒いで窓しめんで」

そう言うてからすぐに、階段をのぼってくる音が聞こえて部屋の戸が開いた。

「早っ!」
「先輩」
「…な、何やねん……って、何すんねや財前」
「財前やない。さっき違う風に呼んではったやろ」
「…離れや、光」
「嫌ですわ」
「頭湧いたんかー、言うとくけどな、今日は借があるで何も言わへんけど」
「好きっスわ」
「……え」
「…好きです」
「……なに、言うとん」

財前の唇がわたしの耳に寄る。あかん、なんやおかし…

「俺も、じゃがりこ好きっスわ」
「…はあ?」
「じゃがバターが一番好きやねん」
「ちょお待ち、何やそれ」
「先輩も好きやろ?じゃがりこ。ほな食べましょか」
「食べましょか、て何考えてんねや財前」
「……」
「とりあえず離れて話しよか、な、財前」
「……」
「あー!分かったから離れ、んでじゃがりこ食べるんやろ光」
「…おん」
「…わたし制服着替えてくるから先に食べとって。悪さすなや」
「しませんわ」

緩くなった腕をほどいて、わたしは立ち上がると部屋を出た。
バタン、静かな廊下に大きな音が響いて、わたしはずるずると倒れこむ。

「何やねん、あいつ…」

わたしが膝抱えとる向こう側で、あいつも同じこと呟いとるなんて、気付きもしんかった。


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