パシテア | ナノ


「てわけで、特に問題はありませんでした」
「そうか・・・なら、正式に滞在届を発行するとするか」
「へーい、どうもすみませんね」
「気にするな、はいいが滞在届を作るにゃ名前がいる。どうする?」
「ああ、それなら。ななし。でよろしくお願いしまっす」
「ん、ななし?」
「そ、わたしの名前ね」

それを聞いて、五代目が口元だけで笑いカカシを見た。わたしの位置からはカカシの表情は伺えないけど、どうせロクでもない顔してんだろうな。

「よし。二人とも、下がっていいぞ」
「はい」
「はーい」

また明日、滞在届を取りに来ることを命令されてわたしとカカシは部屋を出ようとドアノブに手をかけた。しかしその時、後ろから五代目の「あ」と言う声がしてわたしとカカシは顔だけ振り向く。

「夕方で良かったな、カカシ」
「・・・勘弁してくださいよ、五代目」


「なあ聞いたか、すっげえ美人が来たって話」
「聞いた聞いた、何でも火影様以上の女だとか」
「今は上忍の待機所にいるらしい。見に行かないか?」

「・・・・・・・」

どこから話が漏れたのか、翌日は何処へ行ってもななしの話で持ちきりだった。さすがに自分で言うだけあって、ななしの容姿はそんじょそこらの女が束になったって適わない。まあ、容姿に人数の多さは関係ないけどね。
それにしても、ま、あいつは喜んでるでしょーよ。これを求めてわざわざ木の葉の里まで来たっていうんだからね。

「よォ、カカシ。聞いたぞ女の話。何でもお前が捕獲したらしいじゃねえか」
「もうそこまで漏れちゃってるのね、・・・俺しゃべったつもりないんだけど」
「あ?俺は紅から聞いたんだがな。あいつが面倒みてやってるらしいぜ」
「あー、・・・なるほどね」



『ねえカカシ、帰っていいって言ったけどわたし帰る場所ないんだけど』
『それもそうだね、・・・ま、いいんじゃない?得意でしょ、野宿』
『野宿なんて最終手段に決まってるでしょ!』
『じゃあどうすんのよ』
『・・・・』
『ま、俺の家に泊めてやってもいいけどお前嫌がるでしょ』
『当たり前じゃない!だ、れ、が、あんたの家になんて』
『俺も招待したわけじゃないからその方が好都合だけど』
『あああ!もう埒が明かない!自分の寝床くらい自分で探しますよーだ。わたしを泊めたい男なんて五万といるんだから。バーカ』



「あの後どっか行っちゃったと思ったら、紅の所行ったのね、あいつ・・・」
「?よく分からねえが紅は楽しそうだったぜ。美容について教えてもらってるとかなんとか」
「嘘・・・」
「何なら見に行くか?俺も、絶世の美女ってのをお目にかかりたいんでね」
「・・・・・・ろくなもんじゃないよ」

あいつ女友達ができたことないとか言ってたくせに馴染んじゃってんの?いや、でも普通に考えて初対面の子に貧乳って言うよーな奴よ。うまくやっていけるとは思えないんだけど。
というかこんなことは、俺には関係ないでしょーよ。むしろ好都合。ま、面倒なのが一人減ったわけだしな。

「俺は行かないよ」
「まあまあ、そう言うな。お前知り合いなんだろ?」
「・・・・」



* * * *



「まあ、美の基本はストレス蓄めないことね。ストレス蓄めると肌から髪艶から悪くなってく」
「へぇ、確かにあんたはストレス無さそうだものね」
「コルァ紅、失礼なこと言うな」
「ななしさん他には気を付けていることとか無いんですか」
「んー・・・そうね、男に褒められることかしら。綺麗って言われた分だけ女は綺麗になるのよ」
「「「おー」」」

え、何この状況。ななしが崇められてるんだけど。というか喋り方まで作っちゃって入り込んでるよ。あー、やだやだ。
キョロキョロと周りを見渡せば、中忍から上忍までいろんな奴らが待機所のドアにへばりついてななしを見ている。あーあー、みんな赤い顔しちゃって、ねえ。

「ねえななしさん。あのカカシ先生まで落としちゃったって本当なの?」
「あ、貧・・・じゃなくてサクラ、昨日ぶり。カカシ先生て、はたけカカシのことよね」
「あらななし、カカシまで落とすなんてやるわね。あいつは手強い男よ」
「ふふん、ま、わたしの手にかかればカカシの一人や二人楽勝・・・」
「じゃなーいでしょ」
「うげっ、出た」

ななしの後ろに立ち、座っているこいつを見下ろしたら少し怯んだ。ちなみに、ここにいる俺とアスマのことをドアにへばりついていた奴らが穴が空くほどに見るもんだから、何となく俺も怯みそう。アスマは気にしてなさそうだけどね。

「よォ紅。これが噂のななしか?」
「そうよ、期待通りでしょ」
「?紅の恋人か何か?よろしく」
「ななし、朝は火影様の所に行くって約束だったでしょうが。紅も悪かったな、お守りさせて」
「子供じゃないんだからお守りって言い方止めてよ」
「ハハ、何だよカカシ。ろくなもんじゃないとか言っておいて仲良いじゃねえか」
「「どこが」」
「はいはいななし。さっさと五代目のとこ行ってきな」
「ちっ、紅まで。わかったわかった行ってきますー」
「ななしさんまた帰ってきたら色々聞かせてくださいね」
「あー、うん」

ななしは腰掛けていた机の上からひょいと飛び降り、大量の視線の中を平然とした顔で通り抜けていく。時折、愛想よく笑みを振りまきながら。何ていうか慣れてんのね、あいつ。

「じゃ、アスマ。俺も行くから」
「おう、精々がんばってこい」

目で返事して、俺も視線の中をくぐりななしを追い掛けた。通り抜けざま、ゲンマに「後で紹介しろよ」とか何とか言われたけど「やだよ」と返しておいた。面倒くさいしね。やれやれ何であの時俺が捕まえちゃったんだろうね全く。

「火影様の所までどうやって行くか分かるの?」
「失礼な。それくらい分かるよ方向音痴じゃいんだから」
「ま、逆方向なんだけどね」
「・・・・・」

ななしは止まるとくるりと振り返り俺を見た。「わたしお前嫌いだ」だからそれはお互い様ってこの前も言ったでしょ。俺の右側をすれ違い歩いていくななしについて、俺も進行方向を変えた。

「でもよかったじゃないの。お前の望んだ通りちやほやされて」
「何か嬉しくないもん」
「何で。つうかアスマの前では猫被らないんだね」
「・・・アスマは紅のだし。友達の彼氏取るような真似しないもんね。それに・・・」
「・・・なーに?」
「今は、カカシにちやほやされなきゃ意味ないし。他の男に言われても嬉しくない」
「へ」
「だから絶対にあんたのこと落としてやる。見てろよバカめが」
「・・・・・」

驚いて何も言えずななしを見ていると「何で黙るんだコノヤロ」と怒られた。でも、うん。今のはちょっとびっくりしたな。昨日も思ったけど、意外と可愛い所あるよね、お前。

「こりゃ気を付けないと」
「何を」
「ん、秘密だよ」


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