パシテア | ナノ

「そういえばお前、今まで名前が無くてどうしてたのよ」
「あー・・・」
「聞かれたくなかった?」
「んー、聞かれたくなかったっていうか、わたしは里を転々としてたからそのたび名前も違ったんだよね」
「へえ、自分で色々名乗ってたわけか」
「まあね。あ、でも一回だけカカシみたいに名前つけてくれた人がいたな」
「・・・何て名前?ていうか誰に?」

珍しい。カカシはわたしと今日一日を過ごしていたけど、何を話してもそこまで興味を示さなかったのに。名前が無いってのはやっぱりそこまで不思議なものなのかね。
それにしてもでっかい里。ここからだと全部見渡せるんだな。・・・ってそりゃそうか、火影岩だもんね。

「高っけー」
「何、俺の質問スルーなわけ?」
「え、ああ。名前ね名前。ななしって言うんだけどさ、わたしを拾って育ててくれたばあちゃんが名付けてくれたんだ。
まあばあちゃんが死んだ後は、誰もそんな名前で呼ばなかったけどね」
「実の祖母じゃないってことか」
「そういうわけ。親の顔はいまいち知らないしー、なかなか重い過去背負ってるでしょ」
「そうだね。そんななのに」
「・・・ねえ、はっきり言ってあんたのが失礼だよね。人のこと言えないよね」

そう言ってやると苦笑いしながら「褒めたのに」なんて言われた。そんな褒められ方しても嬉しくないんだけど、と足元の小石を蹴るとパラパラと地上に向かって落ちていく。わたしにとっちゃ親がいないとか名前が無いとかこんなものなのにな。

「親も友達もいたことないけど男はいつもいたし、名前も無いわけじゃないし」
「あー、女友達いなさそうだよねお前。初対面で貧乳は無いんじゃない?」
「だって・・・今まで女の子には石投げられたり仲間外れにされたりばっかだったもん」
「・・・」
「まあ千倍返しにしてやったけどね。元々は嫌いじゃあないのになあ、女の子ってのも」
「ハハ」
「・・・何で笑うの」
「いや、お前意外に可愛い性格してんのね」
「ぬわあああ?」

可愛いって形容詞、今まで何度も使われてきたけど、「可愛い性格」なんて使われ方したのは初めてだ。よく分かんないけど何か恥ずかしい気がする。あー、ダメだ!何かカカシのペースに呑まれてるわたし。

「絶対に落としてやる・・・」
「なーに、まだそんなこと言ってんの。無理だーよ」
「わたしに不可能は無い!」
「じゃあ勝負する?どっちが先に落ちるか」
「え、何その勝負・・・」
「勝つ自信ないなら別にいいけど。勝った方はベタに、お互いの言うこと何でも聞くってのはどう?」
「何でも・・・?」
「そ、どうする」

全くやる気の感じられない瞳。こいつわたしを落とす自信あるのか以前に勝負する気あるのかな。すごいどうでも良さそうなんだけど。負ける気がしない。よし。

「その勝負乗った!」
「あ、ホント。じゃあまあがんばってね」
「がんばるのはそっちじゃない、カカシ?随分余裕みたいだけど現段階であんたの印象は最低ラインだからな」
「ま、それはお互い様でしょーよ」
「何をゥ!」
「はいはい。いいからそろそろ帰るよ。日も暮れるし」
「え、もうちょい待ってよ」

よいしょ、と立ち上がったカカシを制して西を向くと、真っ赤な太陽が里を照らしながら山の向こう側に消えようとしていた。
呼吸をするのも忘れそうになるほどに、わたしはその太陽に目を奪われた。空も山も街の屋根も辺り一面が真っ赤に染まる。

「お前の髪みたいな色だね、この太陽」
「へ」

言われてようやく意識を取り戻し、カカシの方を向いた。反射して赤色にきらきら光る銀髪が小さな太陽みたいに見えた。

「いつまでこの里にいるつもり」
「ん、・・・気が向くまでかな」
「そうしたらまたお前は名無しさんになるわけか」
「どうだろう。違うかも」
「何で?」
「だってわたし名前あるし」
「・・・ななし?」
「ううん、ななし」

ニシシ、と笑うとカカシが驚いた顔をして右手で頬をポリポリと掻いた。そして、もうお馴染みにため息を吐く。

「お前の髪、本当に真っ赤だね」
「まあね。あ、そういえば赤髪って呼ばれてたよ。一個前の所では」
「そーなの。そのまんまだね」
「知らないよ。わたしが言い始めたんじゃないし」
「ふーん。それよりもういい?五代目の所に報告行かないとね」
「んー、分かった」
「お、珍しく言うこと聞いたね。偉い偉い」
「子供扱いするな、バカカシ」

もうわたしの先を歩き始めているカカシを追い掛ける前に、もう一度振り返り里を眺める。

「行くよ、ななし」
「はいはーい」


ほとんど沈んでしまった太陽を背にして、わたしはその場を後にした。木の葉の里ね、なかなかいい所来たなあ。うん。



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