パシテア | ナノ

「ああああああ!」
「わっ、突然どうしたんだお前、うん」

隣にいた女が突然大声を上げたかと思うと、こちらをギロリと睨んだ。鮮やかな赤色の髪に大きな瞳、長い睫毛、筋の通った鼻、桜色の唇と雪のように白い肌。これぞ正に人間の容姿における美って奴だな、うん。まあオイラはオイラの作り出すものが一番のアートだと思っているから、というかそれが究極の美であるわけだから、この女も爆発とかすれば更に美しくなると思うんだ、うん。
て、そういう話じゃなくて。女は俺を睨むとそのまま進行方向とは逆に向かって駆けだした。おー、速い速い。あのスピードはイタチ並だからなあ、うん…。あれ?何でアイツあっちに行ったんだ?

「うーん、まあトイレか何かだな、うん。その内帰ってくるだろ」

去っていった女を追いかけるでもなく(だって面倒だし)オイラは一人アジトへ向かった。なんか疲れたから鳥にでも乗って帰るかな、うん。



パシテア



「あああああ!腹立つ!」
「おお、美人の姉ちゃん。何怒ってるんだい?ほら、団子だよ」
「ん?ああ、ありがとうおじさん」
「ハハハ、近くで見ると益々の別嬪さんだなァ。照れちまうよ」
「まあね〜よく言われます」

ほら、ほら、ほらね!この反応だよ!
世の中の男っていうのは、わたしを目の前にしたらすぐに「綺麗だね」とか「世界で一番美しいよ」とか「愛してる」とか言ってくる。
今までの人生もずっとそうだった。顔だってスタイルだっておまけに忍術だって一番で愛されてきたのに。小さな頃からわたしにひれ伏さない男なんていなかったのに……

「何なのよあの男共はアアア!!」
「うおっ、ど、どうしたんだい?」

みたらし団子を口の中に詰め込んで渋い緑茶を一気に飲み干した。飲み終わったその湯飲みを置こうとしたら思いの外力が強かったらしく、湯飲みはガチャンと音を立てて手の中で割れた。クソウ…破片が刺さってちょっと痛いぞ。

「おじさん、絆創膏あればくださいな」
「あ、あああ。すぐ持ってくるよ」

そう言うとおじさんはドタドタと騒がしく絆創膏を取りに店の奥へ入って行った。うん、やっぱ男はこうでなくちゃね。
いやでも、そう思うとますます腹が立ってくる。そうだ。今までわたしに靡かない男なんていなかったのに何であの連中は揃いも揃ってわたしのことアウトオブ眼中なのだろうか。脳裏に浮かぶ暁の連中の顔にわたしはギリィと奥歯を噛んだ。
まずデイダラ。あの黄色いちょんまげは常に爆発のことしか考えてない。あまつさえわたしに爆発しろなんて言ってきやがった。ねえアホなの?死ぬの?死んでくれ。
そしてサソリ。サソリはサソリで永遠の美が何たらかんたら、傀儡になってくれるならうんたらかんたら。遠回しに死ねと言ってやがる。それとあれだ。前体からオイル出てた。正直きもいと思う。
飛段に関しては……なんかもう不気味だし全力で気持ち悪い。自分で自分を刺してゲハハァって何なんだ。意味がわからない。
ちなみに角都は金にしか興味がないしイタチはブラコンで何考えてるか分からない。鬼鮫は魚類だから話にならないし、ゼツは……あれ人間なのかな?植物なのかな?
で、リーダーは小南とできてるっぽい(わたしという者がいながら他の女に靡く意味が分からないが)し、つまりこの組織にはわたしをもてはやしてくれる人が一人もいない。何てことだ。わたしは一日に三回はちやほやされないと死んでしまうというのに。

「はい、絆創膏だよ。貼ってあげようかい?」
「……」
「ん、どうしたんだい?」
「……ねえ、おじさぁん」
「ははははい?」
「わたしね、お金持ってないんだぁ。だからお団子代払えないの」
「え、そうなのかい?い、いや、でも団子代の一つや二ついいんだよ、うん」
「本当?嬉しいおじさん!」
「いやー、ハッハッハッ」

フッ、ちょろいもんだぜ。タダ飯キラーのわたしの手にかかればこんなの朝飯前よ。あ、そうだ。

「ねえおじさぁん、ここから一番近い里ってどこだか分かる?」
「一番近い里かい?そうだなあ・・・木の葉の里が一番近いんじゃないかい」
「分かったありがとう」

椅子から腰を上げ荷物を抱え、わたしを見上げるおじさんに向き直って小首をかしげる。おじさんの顔は心なしか赤くて妙な優越感。久しぶりで何か気持ちいいわ、うん。

「それじゃあお団子ありがとうねおじさん、あ、絆創膏も」
「あ、ああ。また寄っておくれよ」
「うん。その時はまたお団子よろしくね」

おじさんの手から絆創膏を受け取って、手を振り別れた。それにしても美味しい団子だったなあ、イタチが喜びそうな。今度出会ったら教えてやるかな。
そんなことを思いながら、っきの傷に絆創膏を貼るかと右手を見ると既に血は止まっていた。何だこれ必要ないじゃんチクショウと思ったが、折角貰ったのに使わないのも悔しい。じゃなくて勿体ない。でもなくて申し訳ない。
三秒ほど逡巡した後、よし、と手を打った。適当にクナイにでも貼っておこう。お洒落だし悪ガキ感が出てるよね。
右足の手裏剣ホルダーからクナイを数本取り出しペタペタと貼り終わると、戻した。うん、満足した気がする。

「よし、じゃあここから木の葉の里は……あっちか」

よく見ると前方百メーターくらいの所に木の葉の里と書かれた看板が立っている。
よっしゃ!何としても木の葉に潜入してあわよくば里の仲間的なものになってやる!


パシテアの奮闘

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