パシテア | ナノ

「カカシの素顔ー?」
「そ!ななしさんカカシ先生の家に同居してるでしょ?だから見たことないかなあって」
「俺達もういい加減カカシ先生の素顔見たいんだってばよ」
「つーか、そんな用事で俺は呼び出されたのかよ。めんどくせーな」
「だあって、わたしも見たいんだもの。カカシ先生の素顔。あれは絶対美形よ〜」
「いのはイケメン好きだよね」

ちびっこ達に呼び出されたかと思えば、そんなことを言われた。カカシの素顔を見たい・・・って、この子達もカカシの素顔見たことないのか!

「え、サクラやナルトはカカシとフォーマンセル組んでたんじゃないの?というかシカマル久しぶり」
「久しぶりじゃねーよ。人に幻術かけやがって」
「まあま、手荒なことはしなかったんだからさ。・・・で?違うの、サクラとナルト」
「全然!見たことないってばよ!」
「前、見られそうだったのにこの、い・の・豚・に邪魔されちゃって」
「何よこのデコデコー」
「何をー!」
「つーか、めんどくせーから帰ろうぜチョウジ」
「そうだね」

ふーん。知らないのか。・・・・て、わたしも知らない。一応同居、というか居候してるのに一回も見たことないぞ。カカシって風呂上がりとかでも口布してるし。




「と、いうわけで口布外して」
「どういうわけよ」

今日は久しぶりにカカシが任務オフで、いつものように読書をしている所へわたしが突撃した。ちなみに、あの日(サスケ奪還に失敗した日)以来わたしはカカシの家に引き続き居候している。何というか、ノリで。そしてそのことを報告した時、紅はとても喜んでいた。泣いていいかな。

「ナルト達が見たいんだって。わたしも見たことないし見せろ」
「やだよ、そんな見せ物にされるの」
「いいじゃんか!ほら、ちゃんと写真機まで用意したんだからさ」
「俺は写真嫌いだから」
「む、ベッドの所に置いてあるじゃん!」
「あれは特別」

そう言うと、また本を読み始める。お前何回読むんだその本、しつこいな。というかエロ本を堂々と読むなって何回言ったら・・・・あああ、よし!

「とう!」
「・・・何してんの、お前」
「頼んでも駄目なら実力行使。無理やりその口布ずり下ろしてやる」
「・・・・へえ」
「な、何よその笑みは」

カカシは、パタンと本を閉じて手元の机の上に置いた。そして、からかうような人を馬鹿にしたような、そんな目でわたしを見る。思わず「何よ」と言えば、カカシはふっと息を吐いてから立ち上がった。

「実力行使、いい言葉じゃあないか。・・・ま、たまのオフだしお前と遊んでやるよ。ほら、どっからでもかかって来なさいな」
「な、なんっ?」
「俺の素顔が見たいんだろ?ほら、やって見ればななしチャン」

カチンと来た。この野郎カカシ・・・全力で馬鹿にしやがって。何だその目は!わたしのこと蔑みやがって・・・!
口布どころか何もかもずり下ろしてやるよコノヤロー。

「だあっ!」
「、よっ」

正面から突っ込み、思い切り足を振り上げる。しかしその手はカカシの左手によって簡単に捉えられ、わたしは右足を上げたまま身動きが取れなくなってしまった。

「痛い痛い痛い股が裂ける」
「もうギブアップですかー、ななしちゃーん」
「くっ・・・」

わたしは左足で思い切り地面を蹴りカカシに飛び掛かった。すると、わたしの体を受けとめたカカシが足元のテレビリモコンに躓きバランスを崩して後ろへと倒れこんだ。
その隙にわたしはカカシに握られていた右足を抜き、カカシの上に馬乗りになって車輪眼がある方の左目を手で押さえる。これで幻術返しはできない。

「フハハハ、これでカカシも年貢の納め時だあー。くらえ!」
「・・・・ま、それ影分身だけどね」
「へ?」

後ろから声がしたかと思うと、わたしの体が宙に浮き、馬乗りされていた方のカカシはぼふんっと煙を立てて消えた。
本物のカカシは、わたしの両脇に手をかけて高く持ち上げているこいつらしい。

「卑怯だ!この藤木!」
「勝負に卑怯もクソもなーいよ。残念だったね」
「・・・っ!ていうか、何で今日はそんなに真面目にわたしの相手してるんだ!いつも無視するくせに」
「んー。ま、あんまり任務で放っておいてななしに拗ねられても困るしね。嬉しくなかった?」
「拗ねないよバカカシ!嬉しくもない!」

カカシは空中で器用にわたしの体を反転させて、自分と顔が向き合うようにした。にこにこと笑うその目はいたずらっ子の少年そのものだ。
最近気付いたのだけど、わたしはこれに弱い。カカシにこういう顔をされると逃げられないのだ。だからせめてもの反抗に足をバタバタさせてカカシを蹴ってやった。カカシは、痛いよ、と言って笑う。

「下ろせバカー!」
「はいはい、我が儘だねホントに」
「誰でも怒るよ持ち上げられたら。それに高くて怖いっつーの」
「あれ?高いとこ怖いって、ななし忍でしょ?」
「足場が無いから!」

そう叫ぶと、ようやく地面に下ろしてくれた。こうなるとわたしとカカシの背の差はすごい。確かカカシは百八十くらいあるから・・・二十センチは余裕で違う。だからここからじゃ、カカシの顔はよく見えない。

「ななしさ、そんなに俺の顔見たい?」
「うん。まあそんなに期待はしてないけど」
「んー、じゃあななしにだけ特別公開してあげよっか」
「え、本当?やったー」
「ただし、写真は無し」
「ええー」
「文句言うなら無しね。それともう一つ条件」
「まだあるの?めんどくさいなーカカシ」
「ま、そう言うな。で、もう一つの条件てのは――ななし、この口布お前が下ろして」

カカシはそう言うと、にこっと笑ってわたしと目線が合うくらいの高さまで屈んだ。突然カカシの顔がわたしのすぐ近くにまで迫ってきて驚いたわたしは一歩後退さったが、あいにく後ろは壁でそれはかなわなかった。

「これ、下ろすの?」
「そ、見たいんでしょ」

わたしは、ぐっと息をのみ恐る恐るカカシの口布に手を伸ばした。どうしてだろう、緊張するのだ。さっきまでは、カカシの口布ずり下ろしてやんぜ!ってな気持ちでいたのに、いざこうなると。
第一、わたしとカカシの距離が近すぎる。あと十数センチもあればくっついてしまうような距離だ。

「よ、よし」
「ふっ、何よその意気込み」
「ちょっと黙って。今から下ろすから」

わたしはようやく決心して、震える手に力をこめた。そして、カカシの口布の端に手をかけ、一気にずり下ろした。そして次の瞬間、わたしは息をするのも忘れその顔に見入ってしまった。カカシの素顔が、整った綺麗な顔が、目の前にある。

「カカシ、・・・あ」

名前を呼んだところで、ぐいっと腕を引かれた。誰にってもちろんカカシに。何が起きたかに気付いた時には、もうこれ以上ないってくらいにカカシの顔が近くにあって唇に柔らかい感触がした。
温かくてやわらかい、ただそれだけが唇を通してわたしに伝わってくる。きっと、それはほんの一瞬のこと。だけどわたしには何時間にも感じられて、カカシの唇が離れてもしばらく放心していた。

「俺の素顔、ちゃんと見た?」
「・・・・い、ま・・・?」
「ハハ、目が点だよ」
「ちゅー・・・?」

あまりの驚きに、ぽつりとそう溢すとカカシは優しく笑って、今度は口布ごしにわたしにキスした。さっきとは違って長く、長く。
わたしはその日、わたしがどうやって眠ったのか食事したのかもまったく覚えていない。


パシテアと口布



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