パシテア | ナノ

「わたしとイタチはある組織で知り合ってね、まあそれなりに仲良かったんだよ。無口でいまいち何考えてるのか分かんない奴だけど」
「・・・・」

髪の毛をタオルでわしゃわしゃと乾かしながら、布団の上で胡座を掻いて座っているサスケに話してやる。本当はドライヤーで乾かしてもらおうかと思ったけどうるさくて話にならないだろうから今日は妥協した。わたしって優しいな。

「何て言うかさ、すっごい温厚な奴で団子好きでとてもじゃないけど家族殺したとは思えないよ、わたしは」
「・・・それでも、俺は見た。あいつが父さんや母さんを手に掛けている姿を。お前は知らないだけだ、あいつのこと」
「うん、確かにサスケより全然イタチのこと知らない。つき合い短いもん。だけどあいつ嫌な奴じゃないよ」
「っ・・・、そんなことは聞いていない!それよりも今あいつが何処にいるのかを教えろ!」
「イタチは今、暁のアジトにいるよ。というか今日はそこにいた」

そう言うと、サスケは素っ頓狂な顔をした。多分、わたしがこんなにあっさりと言うとは思わなかったんだろう。
髪の毛が五割ほど乾いたのでわたしは手を止めた。あとはタオルで巻き付けておけば寝る頃までには乾くだろう。

「そのアジトってのは何処にあるんだ」
「うーん、わたしも適当に走ってきたからいまいち分からなくなったんだけどさ」
「いい加減なことを言うな」
「本当だから。でも一日かからない程度の所だよ」
「・・・・そこまでの手がかりはないのか」
「手がかり?そうだなあ・・・あ、黒いマントに赤い雲が描いてある服着た奴探して後を付ければいいんじゃない?」
「黒マント・・・」
「うんそう。組織の奴等みんなこれ着てるから」
「・・・お前は着てないのか」
「わたしは何て言うか・・・ちゃんとしたメンバーじゃないからさ」

そこまで言うと、喋るのを止めサスケの顔を見た。虚ろな目に小さく食いしばった口元。さっき「甘いものは嫌いだ」なんて言っていたサスケとは大違いだ。わたしは思わずその頭に手を伸ばした。

「そんなにイタチが憎いの?」
「・・・・・」
「たった一人の兄弟なのに殺したら本当に一人になるよ」
「・・・・・お前に、何が分かる」
「ん?」
「ヘラヘラ笑って悩みなんて無えような顔して今まで生きてきたお前に何が分かる」
「・・・いや、分かんないけど」
「復讐止めろなんざ、今まで何度だって言われてきたんだよ。それでも俺はあいつに・・・イタチに復讐する道を、殺す道を選んだんだ。家族を失い、またその家族を自分の手で殺す苦しみが・・・分かりもしねえお前に説教なんざされたくねえんだよ!」

サスケはパシリとわたしの手を払いのけた。

「俺の邪魔をするな、関わるな!木の葉の奴等と仲良しごっこするのはもうごめんだ!てめぇも消えろ」
「えーと・・・うん。あの、こんな空気で言うのも悪いけどわたし木の葉の忍じゃないよ」
「・・・!だけどお前さっきカカシって」
「今ちょっと木の葉の里にご厄介になってるだけだよ。わたし故郷なんて無いし、・・・まあ親もいないし友達なんて今までいなかったし。ぶっちゃけサスケの過去とかにもあまり興味無いし」
「・・・じゃあ何で、俺に」
「わたしななしって名前。カカシにつけてもらったんだ。それまで名前は無かった」
「・・・・っ」

よっこらせ、と立ち上がり両手を腰に当てサスケを見た。サスケは今にも泣きそうな顔をしている。

「木の葉に来て初めてわたしのことを顔だけじゃなく見てくれる人に出会えた。サクラや紅はわたしにとって初めてできた友達なの」
「・・・」
「だから、あいつ等が大切。例えばもしサクラや紅や、カカシがその大切な人を殺したり殺されたりしたらわたしもサスケと同じことするかもしれない。でもわたしサスケじゃないし同じ立場じゃないからね」
「・・・何が言いたいんだよ」
「わたしは、大事な人たち失いたくない。んで、どうせなら喜ぶ顔が見たい。サクラはサスケが帰ってくることを望んでる、だからサスケのこと連れ帰しにきた」

ビシッとサスケを指さした。これがしたいがためにわたしは立ったのだ。だからもう満足したから座るとする。
サスケはそんなわたしを不思議そうに目を丸くして見ていたけど気にしない。サスケの驚く顔も今日この数時間で随分と見慣れたから。

「俺は、帰らねえ」
「言うとは思ったけど、わたしにも譲れない。何でサスケはそんなにイタチにこだわるの?待っていてくれる人もいるのに」
「・・・・・お前は」
「ん?」
「お前の一番大切な人が、自分を裏切ったにもかかわらず自分に何かを託したとしたらどうする」
「一番大切な人・・・?」
「ああ、そうだ」
「んー・・・誰だろ、カカシ、紅・・・」
「・・・じゃあカカシでいい。そのカカシが例えば、サクラを殺して里を抜けたらどうする」
「・・・あり得ないもん」
「例えば、って言ってるだろ」
「知らない。でもきっと悲しいんだろうと思うけど」
「フッ・・・・・じゃあそのカカシが自分を殺すことをお前に願ったらどうするんだ。お前はカカシの願いを無視して平穏に生きていくことができるのかよ」

そう言われて、困ってしまった。きっとわたしにはカカシを殺すことはできない。カカシが強いからとかそういう理由じゃなくて、心がそれを許さないだろうから。
かと言って、今まで通りに生きていくこともできないだろう。何よりも大切な人を置き去りに生きていけるほどわたしは非情にはなれないから。

「・・・・カカシの願いを、聞き入れるかもしれない」
「・・・俺はつまりそういうことだ」
「!」
「里に戻ってもう一度生きていくことなんてできる筈もない。お前には悪いが、俺は戻らない」
「・・・・うん」
「・・・俺は・・・」
「・・何?」
「いや、・・・・何でもない」

今度はサスケが立ち上がった。「俺も風呂に入ってくる」とそう言って。わたしはただ返事をすることしかできず、部屋を出て行こうとするサスケの背中を見送った。バタン、とドアの閉まる音がする。

「どうしようかな、これ」

誰もいなくなった部屋でぽつりと呟いた。一族殺し、S級犯罪者、イタチのカタガキってのはおっかないものであり決して許されるべきものでないことくらいわたしにでも分かる。イタチが里に戻った所で処刑されるのがオチだ。
だけど、例えば許しあって生きていくことはできないのかな。
こんなことをサスケに言ったらまた怒鳴られるだろうけど。

「・・・・イタチ、何で殺しちゃったかなあ。元凶はそこだよ」

あー、もう。これはあれだ、タイムマシンで過去に・・・いやいや、タイムマシンなんて無かったそういえば。
というか、なんかすごい眠い・・・疲れたもんな・・・

「・・・・ねむ・・」

布団の上にバタリと倒れこんだ。あー、眠い。まだサスケに言わないといけないことが、


トン、と部屋の外で何かが戸にぶつかる。俯き哀しげな表情を浮かべたサスケがそこにもたれかかった音だ。サスケはそのまま地面にずりずりと座り込み自分の右手で顔を覆った。

「悪い、・・・ななし」

お前にはまた会いたい、とサスケの唇が文字を描く。夜明け前、暁の時分にサスケはひっそりと宿を出ていった。


パシテアと復讐
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