先輩 | ナノ

「本当にすみませんでしたー」
「謝ってる気ないね、山田さん」
「山崎氏が怒るから謝ってんです、すみませんでしたー」

月曜日学校へ行ったと同時、わたしは真っ先に山崎くんに絡まれた。山崎くんはなぜか全身包帯ぐるぐるで、それはわたしのせいだと言う。知ったこっちゃない。
しかもその満面の笑みが何か腹立つ、腹黒めが。

「確かに時間教えてなかったのは俺が悪いよ。でもさ、普通あんだけ携帯鳴らしたら気付くよね?」
「わたし着信音が川のせせらぎなんだ」
「変えろ」

山崎くんがものっそい顔でわたしをにらみつけるから、わたしはしぶしぶ着信音を変えることにした。
んー、何にするかな、小鳥のさえずり…は前やったから、森のざわめき、うん、これにしよう。
えーと、着信音変えるには確か設定でー…と。

「山田さんいるかしら?」

ああ、山田はわたしですよー、どこのどなたかな。携帯の音を遮り、わたしは誰かに呼ばれたような気がして携帯に向けていた顔を上げると顔面蒼白の山崎くん。
どうしてそんなに青いんだい?とそう聞く前にすごい衝撃音がして、壁がパラパラと崩れた。

な に が お こ っ た !

普通の生活ではまずありえないこの状況に教室はしんとなる。ていうか引き気味。
そしてそんな空間を破るようにして、知らない女性の声が響いた。

「オイ、テメー昨日この私を散々待たせたあげく、謝罪も無いってどういうことだ」
「…は?わたし?」

いや、誰だこの人。綺麗な人だ……ってそんな悠長なこと言ってる場合じゃねえよ!
この人めっちゃわたしを(笑顔で)睨んでるよ!
リアルに怖えええ!

「オイ、何とか言えよゴルァ」
「ちょっと待ってくださいよ、志村先輩」
「テメェはすっこんでろ」
「…はい」

山崎お前えええ、裏切りやがったな!
ああ、もう本当にどういう状況か飲み込めないです、わたし!
キョドるわたしを先輩が見つめているのを、それを見なくとも分かった。肌にピシピシと刺さっているから、視線が。
しかしこのままでは仕方ないので、わたしは腹をくくって、志村先輩の方を見た。

「…あの、ミーティング行かなくて、大変申し訳ありませんでした?」
「聞いてんじゃねえよ」
「そうアルヨ」

後ろからひょこりと、ピンクの髪したビン底眼鏡の女の子も現れた。

「えーと…こちらも先輩、ですか?」
「まあ確かにお前の人生の先輩ではアルヨ」
「ちょっと神楽ちゃん、何が先輩なんだよ!僕達も一年生だろ!」

酢昆布をくっちゃくっちゃ噛む神楽さん(?)の後ろから更に眼鏡をかけた男の子もでてきた。
…あれ?いつからいた?そんなことより神楽さんの酢昆布が臭い。

「ごめんね山田さん、姉上や神楽ちゃんのことは気にしなくていいからね」
「え…?」
「ミーティングなら僕らが聞いてたから大丈夫だよ。後でまた説明するよ」

そう言って頬笑んでみせた少年に、わたしの涙腺は不覚にも弛まされた。だああああ!ちょっとこの男の子神様だよ!
ワタシ、こんなに人に優しくされたことないよ!

「ああありがとうう。ところで君、名前は?」
「あ、僕は志村新八って言います、よろしくね」
「うん、よろしくね新七くん」
「七じゃなくて八なんですけどオオオ」
「……あ」

素で間違えてしまった。恩人なのに悪いことをしたぞ。しかし神楽さんは爆笑している。なんだこれ結果オーライ?いやでも…。
と、どう謝ろうか考えていたら教室の後ろから女子たちの黄色い声が聞こえてきた。

「何ご…」
「あ、土方先輩こんにちは」
「マヨラー何しに来たネ!」

わたし的に時が止まった(白目)
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