先輩 | ナノ

「おはよー」
「あ、なな来たー。みんなー、なな来たよ」
「え?朝から何?この出迎えは」

教室に入るなり、わらわらと群がる女子たち。え、ちょっとわたし人気者的な?って言ったら冷たい目で見られた。
やっぱり朝からダメだ、今日は。帰りたい。

「とりあえずそこ座って」
「え、でもこれ橋元くんの席」
「座れ」
「借ります、橋元くん」

橋元くん(のイス)に一言断ってから腰を下ろさせてもらった。ついでに鞄も机の上に置かせてもらった。

「ななさ、土方先輩と沖田先輩と何で知り合い?」
「え?」
「上から銀八先生たちとしゃべってんの見てたんだよ」
「別に知り合いってほどではないけど。そうか、あの人沖田先輩っていうのかー」
「ていうかほんと羨ましいんだけどなな!シャンプー何だった、何の匂いだった?」
「誕生日聞いた?」
「間近で声聞いてどうだった!」

四、五人に取り囲まれ尋問に合う今の状態。心なしか他の女子も耳を傾けているような気がする。
ていうか友よ!見ていたならわたしは逃げてきたのも知ってるだろチクショー。
シャンプーは光のマシェリぽかったぜコノヤロー。

「なな!秘密は共有するものだかんな!」
「ああああ、分かりません知りません、声は忘れましたあああ」
「はあ?」

面と向かってコノヤローなんて言えません。
目が血走った人に向かってチクショーなんて言えません。どうせわたしはチキンだよ。

(誰か助けて……!)


「山田さーん、呼ばれてるよー」
「え?あ、わかった。じゃあごめん、呼ばれてるからあはははは」
「今度はちゃんと聞けよ、なな」
「あはははは」

乾いた笑いをこぼしながら、橋元くんの席を去る。イスが生温かいけどごめんね。



「えーっと?誰が呼んでんだ〜?」

廊下に出てみるも、それらしき人はいない。

「あれ?空耳かな…」
「あ、山田さん」
「ん?」

振り返った方向には、昨日の少年。あれ?何でここにいるの?
ああ、そういえば同じ学校で一年生か。

「君が呼んでたの?ていうか何で教室にいるの」
「だって俺同じクラスだけど……ていうか君じゃなくて山崎ね、山崎退」
「……ご両親、また投げやりな名前を」
「投げ飛ばすよ」

うっわ、なんてベタなんだ。だけどびっくりだ。まさか昨日パシリにされていた少年、山崎氏は同じクラスだったとか…。わたしは入り口のドアにもたれかかって密かに笑った。

「それで山崎氏、わたしに何の用だい?」
「…ああ、部活の連絡網なんだけどさ、山田さん一年生の女子の部長やってくんない?」
「え、やだ」

何を言い出すかと思ったら山崎氏。君は知らないのかい?わたしが部活自体に行く気が更々ないことを。
そんなわたしに部長?ハハハ、無理だろ。

「でもさ、副長直々だからさ。やってくれないと困るんだよね」
「困ればいいじゃないか」
「本当に殴っていい?」

そんな物騒なことを言う山崎氏の言葉に続くようにしてチャイムが鳴った。
廊下からバタバタと生徒の走る足音が聞こえる。

「とりあえず山崎氏。その話はまた後でね、席着こう」
「まあ俺山田さんの隣だけどね」
「いい加減にしてよ」
「それはお前だよ」

山崎氏、以外と口悪いな。とりあえず右側の席に要注意しよう。



あの後SHを終え、ただひたすら先生が話すだけの現代文が始まり既に20分が経つ。
ノートに取るようなことも特に無く、ボーッと過ごす。ああ、消しゴム残り少ないな、買ってこないと。

「…山崎氏」
「…その呼び方止めて」
「じゃあ山崎くん、何で土方先輩はわたしに部長やらせようとしたのさ」
「あー…、朝土方先輩に会ってね。山田さんの名前聞かれて」
「うんうん」
「あいつに部長やらせろ。何か女っぽくねーし。って」
「よし分かった、先輩を殴ってこい」
「…山田さん本当に先輩たちに興味ないの?」
「どういう意味?」

わたしは長い話になりそうだったので、机を少し山崎くんの方に近づけた。
すると山崎くんが(少し嫌そうな顔をしてから)淡々と話し始めた。

「土方先輩も沖田先輩もあのビジュアルじゃん。だからそれ狙ってマネやったり部活入る子は中学の時からたくさんいてさ。だから先輩たちに興味無い女子なんて珍しいなあ、って」
「ああ、なるほど。自意識過剰なわけか、あの人。確かに彼女になったら鼻高々だろうね」
「え、何その反応」

うわ、今すっごい山崎くんの顔が歪んだ。

「いや、わたし土方先輩とまともに会ったの今日が初めてなのに随分なこと言うなあって。わたしだって普通の女子ですぜ」
「山田さんが普通の女子ねえ」
「何かムカつくんだけど。でも剣道部のマネ達怖いよ、目が。我こそはって感じじゃんね」
「ふーん」
「何だその笑いは、何だその顔は」
「山田さんはそういうの興味無さそうに見えたから以外で」
「わたしも女子高生だからね!人並みに恋くらいする…予定」

そう言うと、また山崎くんは嫌な顔で笑っていた。何かムカつくから消しゴム盗んでやろう。

「で、山田さん結局部長やってくれるよね?」
「え、嫌だけど」

笑顔の山崎くんに、ギュッと足を踏みつけられました。ギャッと声を上げたせいでわたしは先生に睨まれてしまいました。
やっぱり今日は厄日だ。

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