繋がる二つの影




火山永久はβだ。普通。平凡。平均。どこにでもいるような男子高校生だ。しかし、ある一点だけは普通ではない。その部分だけで火山永久という人物を認識すると、普通、平凡、平均、どの言葉も似合わない。異端という言葉が一等似合うと言われるだろう。その異端と言われるであろう点とは同性のβである露草つくしが恋人というところだ。第二の性が発見されてから同性カップルに少しだけ偏見がなくなってきた。しかし、それはαもΩの同性カップルのみだ。男のΩには子供を生む機能が備わっているが、男のβには備わっていない。つまり、男のβ同士では子供ができない。否生産的だ。近年、人口の減少が著しいため、否生産的であるβの同性カップルは世間から批難はされど、歓迎はされない。だから、放課後の教室で想いが通じ合い付き合い始めた永久とつくしは周りには秘密にすることにした。今まで通り友人として振る舞うことにしたのだ。

「おはよう。」

通学路の並木通りを歩いていると、後ろから声をかけられる。つくしは愛しいその声に笑みを浮かべ振り返り、挨拶を返す。

「おはよう。永久。」

つくしは永久が隣に並ぶのを待って、二人は再び歩き始めた。ハァっと吐いた息は白く、もうすっかり冬だと感じる。今日も寒い、と永久はマフラーを口元に寄せる。

「今日も寒いな。朝、布団から出るのが嫌で、いつもより家を出るのに時間かかっちゃったよ。」

「そうだな。俺も寒くてギリギリまで布団に潜ってたら、母さんに布団剥がされた。鬼かと思ったぞ。」

「永久のお母さんならやりそう。」

ケラケラと笑うつくしを見て、永久も少し笑みを浮かべる。そして、人の不幸を笑うな、とつくしの頬を横に引っ張る。

「痛い痛い!やめて、永久!ごめん!ごめんって!」

必死になって謝るつくしに永久は笑いながら頬から手を離した。つくしは直ぐ様自信の頬をさすり、永久を睨む。
「すっっっごい!痛かった!!」

「すっごく痛くしたからな。てか、つくしの頬っぺた暖かいな?もう一回つねっていい?」

「はぁ?いいわけないでしょ!痛いことされて喜ぶ性癖なんてないよ、俺。」

「冗談だって。」

冗談だと分かっても少し苛立ったのか、つくしは永久を置いて早足て歩き始めた。永久は驚き、慌てて謝りながら追いかける。つくしは止まる気配も減速する気配も見せずに進む。本気で怒らせてしまったのか、と永久は焦り始める。すると、突然つくしは立ち止まり、くるりと振り返った。永久は慌てて止まろうとするが、凍っている地面に足を滑らせ、つくしの方に倒れこむ。つくしはそんな永久を難なく抱き止め、にっこりと笑う。

「怒ってないよ。つねられて痛かったから、仕返し。」

「なんだよ、もう…。すっげぇ焦った。」

「ふはっ!じゃあ、仕返しは大成功だ。ほら、早く行こう。そろそろ本当に遅刻しちゃう。」

つくしは永久に手を差し出す。永久はつくしがあまりに自然に手を差し出してきたものだから、そのまま手を繋ごうと手を上げたところで躊躇する。ここは通学路だ。今は人がいないが同じ学校の人がいつ現れてもおかしくはない。手を繋いで歩いているところを見られてしまうと、言い逃れはできない。手を上げた状態で固まる永久に見かねたのか、うくしは永久の手を掴み歩き出す。

「ちょっ…、つくし!手、繋いで歩いてたらバレる!」

「大丈夫だって。この時間帯、遅刻ギリギリだし、誰もいねぇから。並木通り抜けるまでは心配ないよ。」

繋がれた手からじんわりと熱が伝わってくるのを永久は感じる。冷たい手だな、と言いながらも離す気配をつくしは微塵も見せない。秘密の関係。世間から批難される関係。祝福などされないだろう。隠して隠れて。外では距離を縮めることは叶わないと思っていた永久はつくしとこうして手を繋ぎ、外を歩けることに幸せを噛み締める。ありがとう。そう小さく呟く永久につくしは何も聞かず、どういたしまして。と返した。

繋がる二つの影
(絡む指先から伝わる熱にとくんと胸が鳴る)


 

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