手を合わせる




※友情出演→麻白様宅、コジョンド♀の暦ちゃん

休日の昼頃、ファンドルは出かけようとしていた。出かけると言っても、買い物に行くのではない。暦と組手をするために、いつも組手をしている広場に行こうとしているのだ。玄関で靴を履くためにしゃがんでいるファンドルに闇凛が声をかけた。

「ファンちゃん?お出かけですの?」

「おー。ちょっと、こよと組手してくる。」

嫌な予感がしたファンドルは早く話を切り上げて、家を出ようとした。しかし、闇凛に両肩を掴まれ引き留められてしまった。

「何、すんだよ…。出かけるって言っただろ、今。」

「お出かけの前に“お願い”があるのですわ!!」

「嫌だっつうの!!お前の“お願い”は録なもんじゃねぇ!!」

「じゃあ、この写真ばらまいても、よろしいのですわね?」

嫌がるファンドルに闇凛はニヤニヤ笑いながら、一枚の写真を見せる。その写真には頭に猫耳カチューシャをつけ、ピンクのフリルのエプロンドレスを着ている少女が写っていた。いや、正確には少女ではない。なぜなら、それはファンドルであったからだ。

「!?おまっ………、それなんで……!!」

「内緒、ですわ。“お願い”、聞いてくれますわよね?」

ファンドルは仕方なく頷き、闇凛の後をついて歩く。写真をばらまかれたほうが良かった、とファンドルが思うのは、数十分後の話である。

***

「おい。なんでまた女装なんだよ、バカ!!」

「ふふ。これで今日は組手は出来ませんわよね!!」

「組手どころか、家だって出たくねぇよ!!こよと約束してるっつうのに……。」

「あらあら。可愛らしい格好をしているのにそんな乱暴な口調、ダメですわ。すぐに男だとバレてしまいますわよ?」

闇凛に文句を言うファンドル。彼の格好は闇凛がいう通り、乱暴な口調は似合わず、可愛らしい。レースが施されている大きめの襟の黒ワンピースにハートパッチワークの黒のニットカーディガン。黒のショートブーツを履き、本型のカバンを肩から斜めにかけている。横髪を上から編み込みにし、カチューシャのようにした髪。化粧をしているためか、いつもより長いまつげと大きな目、少し艶やかな唇。どこからどう見ても、美少女である。

「じゃあ、さっさと服を返せよ、変態!!」

「嫌、ですわ。似合っているのだから、着替える必要はありませんわ。それに、私の“お願い”はまだ終わっておりませんわ。」

「はぁ?」

「暦ちゃんと待ち合わせ、してるのでしたわね?暦ちゃんに『ファンちゃんが遅れる』と伝えるように瑠璃に頼んだんですわ。だから、今からその格好で暦ちゃんのところに行ってきてもらいますわ!!」

「おい変態。お前は!!この格好で!!こよに!!会えっていってんのか!?」

「そうですわ。早く行くことをオススメしますわ。暦ちゃん、少し肌寒い中でファンちゃんを待っているのですわよ?」

「ああ、もう!!行ってくる!!」

「行ってらっしゃい、ですわ。あぁ、がに股ではなくうち股ですわよ。まぁ、ファンちゃんは普段から、がに股では歩いていませんから心配無用ですわね。」

────────────

スカートを翻しながら、広場まで走る。走っているファンドルをすれ違う人は振り向き、後ろ姿を見つめる。沢山の視線を感じ、ファンドルは気分を害したが、これ以上暦を待たせるわけにもいかず、全てを無視して走り続けた。

「こよ!!」

「ファンドル殿……、でありますか…?」

「あぁ、悪いな。待たせて。」

「全然大丈夫でありますよ!!とても可愛らしい格好でありますね!!」

「あー、これはだな…。闇凛に無理矢理着せられて……。」

「とても似合ってるでありますよ!!」

無邪気な笑顔でそう言われては、嬉しくはなくとも反論はできず、ファンドルはただ礼を言っただけであった。

「で、だな。こんな格好じゃ、組手はできねぇからさ、また今度でもいいか?」

「大丈夫でありますよ。じゃあ、今日はどうするでありますか?」

「そうだな…。どうすっかー。」

ファンドルは口元に人差し指をおき、考える。

「あ、じゃあゲームセンターとやらに行くのはどうでありますか?ファンドル殿とプリクラを撮りたいであります!!」

「こよに迷惑かけちまったし、いいぞ。んじゃ、行くか。」

そうファンドルが言ったが、暦はファンドルをじっと見つめ、動かない。ファンドルは暦が口を開くのを待った。

「ファンドル殿って、本当は女子なのでありますか?」

やっと口を開いた暦から出た言葉にファンドルは驚愕し、固まってしまった。が、それもほんの数分。ファンドルはすぐに否定する。

「これは闇凛にやられただけで、俺自身は男!!手、貸してみろ。」

ファンドルは暦の手をとり、自らの手と合わせた。ファンドルの手は暦の手よりも一関節分大きく、そして骨張っていた。

「ほら、こよよりでけぇだろ?俺は男。ほら、行くぞ。」

「そうでありますね。ファンドル殿が女子なわけないでありますよね!!」

ファンドルは暦の手を放し、歩き出す。暦もすぐにファンドルを追いかけ、並んで歩き始めた。


手を合わせる
(冷たくて大きな手、暖かくて小さな手)


 

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