手を差し伸べる




運が悪かった、としか言い様がなかった。たまたま夜出かけて、たまたま殺人現場に居合わせて、たまたま犯人の服装や外見が似ていて、たまたま警察とかち合った。たまたま、偶然が重なって俺は殺人犯として身柄を拘束された。

「さっさと吐いてくんねぇかなぁ?」

「…………………。」

そして今、事情聴取というものが行われている。吐くも何も、やっていないのだから、どうしようもない。口をつぐみ、ジッと前だけを見据える。ずっと黙りこんでいたが、彼らはそのことに苛立ってきているのが、見て取れた。

「お前がやったんだろ!?目撃者もいるんだ!!さっさと吐きやがれ!!」

「…………………。」

「吐く気はねぇのな。………おい、例の部屋連れて行け!!」

例の部屋とは何だろうか。よく分からないが、彼らのニヤついた表情から良いものではないと理解できた。

───────────

「あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!!!」

例の部屋とは所詮、拷問室と呼ばれる場所だった。腕を鎖で拘束され、天井から吊るされる。上半身を覆う服は取り払われ、肌が露出している。そこを鞭や竹棒で打たれる。多数のミミズ腫れが上半身を覆っており、痛々しい。叩かれるたびに声を上げているために喉が痛い。

「どうだ?吐く気になったか?」
「はぁ…、なにを…?ぐっ!!」

同じ質問しかしない彼らに惚けて聞き返した。全然余裕ではないし、こちらが不利な立場なのは重々承知している。しかし、余裕の表情を浮かべ、そう聞き返すと彼らはまた鞭で打った。

「この程度ならまだまだ余裕というわけか。なら、これならどうだ?」

「っあああああああああああ゛あ゛あ゛!!!!!」

激痛が走った。先ほどよりも格段に痛みが強い。肌が焼けるように痛い。意識が飛びそうだ。目の前が霞んで見える。

「これは肌を焼き爛れるほど毒草なんだ。これでお前を打ち続けるとお前は死んでしまうぞ。さぁ、吐け、吐きやがれ!!」

そう叫びながら、二、三回毒草で俺の体を打った。激痛がまた走り、叫び声がまた響く。荒い呼吸を繰り返しながら、意識を飛ばす寸前、大量の水をかけられた。

「ああああああああああああああああああ!!!」

怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。やめてくれ。助けてくれ。どんな痛みでも耐えられる。けれど、水は、水だけは無理なんだ。

「ほう…、水が怖いのか。水、持ってこい。」

彼らは水の入ったバケツを持ち、こちらを向く。やめろ、やめろやめろやめろやめろ。怖い、恐い。

「ひっ!!」

誰か、助けてくれ。心の中で助けを求めた。助けてくれる人など、ここにはいないのに。目を固く瞑る。すると、凄まじい衝撃音が聞こえた。目を開けると、そこには俺の仲間がいた。

「な…んで……。」

「お前がいねぇと喧嘩相手がいねぇんだよ。」

「永久がいないと、ツッコミ役いないのよね。」

「お前がいないと、ゲーム攻略できねぇし。」

「永久先輩がいないと、一軍の元気が半減しますです。」

「俺の料理を試食してくれる人、永久だけなんだよ。」

「永久がいないと、緑亜が寂しがる。」

吐き捨てるように言った夜天。少し笑いながら言ったつら姉。不貞腐れながら言った夜来。ニコニコ笑いながら言った遥兎。おどけたように言ったロゼットに、周りを睨みながら言った銀牙。

「バカだな…、お前ら…。」

思わず吹き出しながら言ったそれに、放心状態だった彼らが動き出した。彼らは遥兎を中心に攻撃を仕掛ける。遥兎は一番弱そうに見えて、強い。そして戦うことを好む。そんな相手に彼らが勝てるハズもなく、決着はすぐについた。すぐにこちらに駆け寄り、鎖を外してくれた。力が入らず、ダラリと凭れる俺を銀牙が背負い、部屋を出たところで俺の意識は途絶えた。

「お疲れ、俺らのリーダーさん。」


手を差し伸べる
(彼を救うために差し伸べられた手は多数)


 

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