手を握る




日も傾いてきた夕暮れ、夕飯の準備をするためにキッチンに立っている男が一人いる。今日の夕飯は最愛の弟の好物にしようと考えた男は鼻歌を歌いながら、料理をしている。

「こんなもんか…。」

そう呟いた男の目線の先には、小さなオムライスとタコさんウインナー、小さなハンバーグにキャベツとプチトマトが小さなプレートを飾っていた。お子様ランチのようだ。仕上げにオムライスの上に小さな旗を差し、お子様ランチは完成した。

「さて、と…。晩飯の準備はすんだし、風呂沸かすか。」

男が浴槽にお湯を入れるために風呂場に向かおうと扉を開こうとしたが、男が扉を開く前にその扉は自動的に開いた。驚きつつ、少し目線を下げると、息を荒くした少年がいた。

「どうしたんだ?そんなにあわてて。」

「はぁはぁ……銀牙さん、大変……はぁ…っす!!緑亜が…はぁ、緑亜が迷子になったみたいで…はぁはぁ…。」

「は?お前やつらら、永久たちと一緒に遊びに行ったんだろ?なんでだ?」

男、銀牙の質問に少年は息を整えてから答えた。

「昼頃はまだ人がすいていて、手をちゃんと繋いで歩いてたんですけど、夕方になると人が急に増えてきて…。ぶつかった拍子に繋いでた手が離れてしまって…。今、他の奴らにも連絡して探してるんすけど、見つからなくて……。」

「夜来。お前らには後できっつい説教が待ってるから、覚悟しとけよ。俺も探しに行くから、お前は風呂沸かして、家で待機してろ。」

自室に防寒具を取りに行く銀牙の後ろを少年、夜来はついて歩く。

「え!?俺も探しに行きますよ!!それに、なんで風呂……。」

「もう冬だろ?昼はまだ少し暖かいからって緑亜を少し薄着で外に出したから、あいつの体冷えてるだろうし。帰ってきたら、風呂に放り込めるようにしてて欲しいんだ。」

「えっ、あ…わかりました。」

「あー、後な。お前、スープ作んの得意だったよな?温かいスープ作っててくれるか?」

「へ?」

「探してる奴らも体冷えてるだろうからな。温かいスープ飲めば、体も暖まるだろ?あ、それから風呂沸かしたら、先に入っとけよ。お前も体冷えてるしな。」

防寒具を身につけ、緑亜のポンチョを持ち、『じゃあ、行ってくる。』と言った銀牙に『いってらっしゃい。』と小声で夜来は呟いた。銀牙が出ていき、誰もいない家で夜来は少々大きな声をあげていた。

「やべぇ、やっぱり銀牙さんかっこよすぎる!!マジ兄貴って感じだ。憧れる。マジかっけぇ!!」

そう言いながらも、きちんと風呂を沸かして入り、スープを作ることも忘れない。そのスープには“愛情”も入っていることだろう。しかし、それは“銀牙さんへの愛情”であり、とても偏ったものであることだろう。

───────────

緑亜たちが遊びに出かけた所に急いで向かうと、そこは夜来に聞いた通り、大勢の人がいた。チッと小さく舌打ちをし、早速緑亜を探し始める。

「緑亜ー!!緑亜ー!!」

***

大声で名を呼びながら、探し回ること数時間。辺りはすっかり暗くなり、大勢いた人も少し少なくなったため、探すのが楽になってきた。しかし、夕方から夜に変わったために外はより冷えきっており、病弱な弟の体調がとても心配な銀牙は焦っていた。

「どこにいるんだ…。」

「くしゅん…!!」

「緑亜…!!」

くしゃみが聞こえてきた方を見ると、緑亜がいた。緑亜はしゃがみこんで、カタカタと寒さに震えている。銀牙は急いで緑亜に駆け寄り、持ってきたポンチョを被せる。そして首に巻いていたマフラーを取り、緑亜の首に巻いてあげる。

「緑亜?大丈夫か?寒かったよな。見つけるのが遅くなって、ごめんな。怖くなかったか?」

「さむかった。こわい…?わからない…。でも、みんながいないのは嫌だった…。」

「そうか。じゃあ、早く帰ろう。家に帰ったらみんないるし、夜来が温かいスープを作ってくれているからな。」

「うん。」

緑亜の冷たい手を握り、歩き出す。目指すは暖かい仲間と暖かいスープのある、あの場所だ。帰ろう、俺らの家に。


手を握る
(勝手に握った手を緑亜が握り返し、“繋ぐ”に変わるまで、あと数秒)


 

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