(同棲高緑)


それでは、良いお年を!!

華やかなファンファーレと共にたくさんの紙吹雪を散らせながら定番の音楽番組は終わった。J-POPや演歌などにはあまり関心がないので右から左にながしていたのだった。高尾はあのバンドがまさかここまで上り詰めたんだなぁだとか今年もこのグループの人気は半端ないだとか感慨深げに呟いていたのを脳裏に思いをだす。この番組が終わると一年の最後をまざまざと意識してしまうのは何故だろうか。もうすぐカウントダウン、あと今年も残り少ないのだ。
手元が寂しくなって、不意に目に入った炬燵の上の籠からみかんをひとつ。

「しーんちゃーん、みかんはだぁめー」

間延びした声が聞こえてきたと思えば、ふんわりと油とだしの合わさったやさしいにおいが鼻をくすぐった。

「そうか、蕎麦か」
「そ、愛情たっぷり詰め込んだ和成特製のダシだぜー」
「重たそうだな」
「ちょ、なにダジャレ?愛の重さと胃もたれをかけたの?」

愛情とやら知らないが、醤油に昆布やら鰹節の出し汁をあわせた母親仕込みのものだろう。今日くらい麺についてくるダシを使えばいいのではないかと提案したが、料理に対して何かと凝り性な高尾曰く、今日だからこそ人事を尽くして美味しいダシの蕎麦を作るのだという。
ちなみに夕ごはんはこの時のために少なめにした。物足りない胃袋は蕎麦を楽しみにしているらしく、小さく音をたてて出来上がりを待ちわびている。

「出来たよ、食べよ」

絶妙なタイミングで完成された蕎麦の入ったお椀には透明な薄茶色の液体に油揚げ、緑間好みの量の昆布に鰹節がはらはらと躍りながら水中に沈んでいく。

「ではでは、いただきます」
「いただきます」

口を尖らせて息を吹き掛けて熱を冷ましつつ咀嚼して、お互い言葉はほどほどに蕎麦を食べていく。
「んんん、うめえ。な、真ちゃん。美味しい?」
「ああ、美味い」
「そりゃ良かった。」
「毎年この蕎麦はやけに美味い気がすんだよな」
「和成が人事を尽くした結果なのだよ」
「ふは、そっか。」

もうあと10分くらい。二度と戻ることのない一年が着々と削られていく。
ぱちりと手を叩いて、今年最後の食事に別れと告げる。画面のなかの人間は最後の瞬間と始まりの一瞬に興奮しているのか忙しなく声を出してカウントダウンをする。残り3分。
灰色の瞳は画面のなかを映したまま。

「一緒にカウントダウンする?」
「しない」
「えー、つれねえの」

残り1分。
高尾の手元のリモコンを取って、電源ボタンを落とす。

「ちょ、真ちゃんカウントダウン!!!」
「うるさい。」

残りは、どのくらいだろう。
やっとこっちを向いた。訳のわからないと言わんばかりの表情をだしているが、あいにく自分でも何故こんな行動に出たかはわからない。

「最後と、最初くらいこっちを見ているのだよ」

するりと口から出た言葉はなんとも拗ねているような笑っているような訳のわからない色をしていて、まあ、広い視野を移す目を画面ではなくて自分に向けられているのは気分がいい。
残りは、どのくらいだろう。

「ちくしょ、カウントダウンなんかしてられっか!」

視線はそらさず、炬燵から身を乗り出して抱きついてきた高尾の背に腕をまわして抱き止めてやる。柔らかく抱き締めてくる熱がどうしようもなく愛しくてたまらなかった。







ハッピーニューイヤー!!!





明けましておめでとうございます……!
1,5のサムさんから、あけおめフリー作品をいただいてきました。相変わらず心がほんわりするような独特な世界観が美しい作品で…新年早々テンションが、テンションが……!
ありがとうございます……!
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