自分の家の筈なのに緑間がいるだけでそこにあるほとんどのものがキレイに、特別に見えるフィルターが備わっているらしい俺の目に感謝。眼福。さきほどまで自分が座っていたソファに緑間が座っていて俺はその向かいに突っ立っていた。訝しげに、しかし他人様の家ということを考慮してか学校よりか上から目線になっていない程度の態度で緑間はなぜ座らないのかと聞いてきた。見とれてた、なんて言えないから「いや別に。なんでも」と返す。へらりと笑えば緑間はそんな俺から視線を逸らして、テレビのほうを見た。人工的な墨を垂らしたような黒い画面越しに緑間と目が合って、焦って、今度は俺から視線を逸らした。逃げる為にキッチンへ向かう。

「なんか飲む? コーヒーとか」

緑間の首が動いて澄んだ深緑が俺に合う。酷く気分が高揚するとともに舌先が痺れる感覚と口の中が乾燥するような妙な焦燥感が襲ってきた。唾を呑み込んで乾いた喉を覆い緑間の「ブラックは飲めない」という言葉を咀嚼する。意外、と視線だけで伝えてみる。「…変だと思うか」どうやら伝わったらしい。緑間はぼそっとそれだけ吐き出した。こちらを見ないのは俺に返事を求めていないように見えて実は聞きたいけどでも恥ずかしくて聞けない、とかそういう偏屈かつ面倒くさい理由からだと解釈する。そっちのほうが俺がうれしいから。自己満足。

「別に、思わないよ。俺も飲めないし」
「そうなのか」
「そうなの。ミルクティーにしよっか。いい?」
「ああ」

赤くて丸いヤカンは妹ちゃんが選んできた可愛いデザインのもので、とても気に入っている。それがあついよ、て悲鳴を上げる寸前でマグカップに注ぐ。これまた妹ちゃんの趣味で、ドット柄ネイビーとボーダーラインのオレンジ。

「どっちがいい?」
「お前は」
「え?」
「お前はどっちが飲みたいんだ」
「…いや中身一緒だし、別に」
「………」
「………」
「……じゃあ、俺こっちにするよ」
「…ああ」

なんでこういう空気になっちゃうんだろうなぁ。オレンジに口をつけながらぼんやりと点いていないテレビを見る。画面越しに見ても緑間はキレイだ。キラキラしている。

「なぁ、緑間…せんせ」
「なんだ」
「…いまの時間にさー、勉強見て貰うってあり?」
「………」
「勤務時間外はまずい?」
「構わないが、お前は見るほど成績が悪くないだろう」
「いんや、俺にだって苦手科目ぐらいあるぜ。英語、英語見てよ」

スクバからノートと問題集を取り出して机に置いた。やたら分厚い問題集は学校が半ば強制的に買わせるもので、いままで学校に放置していたが最近盗難されることが多いと聞いて態々今日持って帰ってきていた。大体臆病でずるい人間はこうする。
ぺらり、薄っぺらいページに躍る英文を指先でなぞる。「これとか、分からないデス」「態か」本当は分かってるんだけど、いや触るくらいには分かってるつもりなんだけど、しっかりとか分かってないから、だから「分からないんデス」もう1度口を動かす。緑間はちらりと俺を見てから黙ってシャーペンを握った。緑間がすこし距離を詰める度に俺の中でいっぱいいっぱいなものが更にいっぱいいっぱいになってちょっと苦しいけど、それから逃げるのは勿体ないなんてものじゃない。もっと傍に寄ってほしいと傲慢にもせがむ。口に出さずに。

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