※ごちゃついている



鳴り響く液晶画面を水槽に投げ入れた。ちいさな水音のあとに沈んでいくそれが終わってしまう恋に似ている。あいまいに思考が散らかっていて考えが確立できない。ただぼんやり失恋を享受していた。思いでにしてしまうには近すぎて、ひどくこころが乱れている。呼吸を押さえつけるように手のひらで口をふさぐけれど、どうしても死ねない。自分がきっとずっとこのままだという確信さえあった。

水槽の中ではきっとだれもが諦めている。絶対に出られないのだと知っているからだ。足のない魚たちが地面で生きていくことは難しい。詰まるところ、赤司にとって紫原はずっと魚で、自分はずっと水槽だった。どこにも行けないし、生かせない。赤司は自分がいなければ、紫原は息なんてできなくていいと思った。それが当然という思考だったのだから、今考えれば強情で我儘で自分勝手で横暴なのは赤司のほうだった。けれども紫原が赤司を拒んだあの瞬間、傷ついたのはだれより赤司だった。どうしたらいいのか分からなくて、やっと自分は紫原がいないと呼吸できないということに気付いた。冷たい檻が必要だった。だれでもいいから、自分を囲ってくれる人が。

縋るような視線を受け止める人はいなくて、ただ腫れものに触るように、赤司が望んだように囲ってくれる人間が現れた。実渕はそっと赤司の瞳を覆う。だいじょうぶよと言う。それが口だけだと分かっているから赤司は安心してその胸になだれ込み、息を吐く。実渕は赤司の空気になった。水の中で生きていけないから、赤司はやっと逃げ出すことを覚えた。水はただ冷たくて、凍えてしまいそうだった。実渕の体温はそれより幾分かましだった。それだけだ。

どうしたらいいんだろうと紫原が言う。あの日よりずいぶんときが経って、赤司はやっと彼をこころにおけるくらいにまで落ち着いた。どうしたらいいんだろう赤ちん、ね、おれ、どうしたら正解なんだろう。困ったように首を傾げる。生きている意味をなさないような自分の虚ろが彼の紫色に移ってひどく惨めだった。あの頃からなにも変わっていない自分が醜い。紫原を悩ませるすべてが憎い。あの日赤司征十郎を手放さなければ、おまえは一つも間違わなかったのに。こころに空いたものを見せつけるように泣いてやった。

突然の機械に水槽の中の淡水魚が怯えている。それを困った顔で見つめて実渕が悲しげに笑った。その作りものめいた頬笑みに手を伸ばして、ぼくは。おれは。だれかのものになりたがっていた。はやく。淡水魚が、死んでしまう前に、水を汚してほしくて。


タイトル:彼女の為に泣いた


赤司は難しい…。




第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -