「どうして、日高は日高なんだろうね」 そう五島が言うと、日高は信じられないようなものを見る目で、気味悪がったふうに、何言ってんだよ、と返した。五島も自分が何を思ってそう言ったのかは分からなかった。曖昧に、何となく、心の奥底に沈殿していた疑問だった。それに中身はなかったし、具体的にどうということもなく、ただの、純粋な、五島なりの、疑問だった。日高は笑い飛ばさなかったけれど、五島は自分で言って、日高の目が不審そうに細められるのを見て、やっと喉の奥で笑うことができた。 「ゴッティー、ちょっとキモイ」 「酷いなぁ」 「自分だってそう思ってるくせに」 そう言われると、五島は、何だか居心地が悪くなって、どこか落ちつかなくなった。ゆっくりと内臓を撫ぜられているような気持ち悪さだった。やっと出てきた笑みをすぐに消してしまった五島に、日高はもう一度眉を潜める。 「何だよ」 「日高こそ、何。何でも分かるみたいなこと言うのやめて」 「言ってねえよ」 「言ったよ」 日高のくせに、何でそんなこと言うの、と五島はどうしてか眼球の裏が痛く、熱くなった。滲む視界の少し遠くで日高は驚いた顔をする。また、信じられないという顔をする。今まで見たどの日高より日高らしい顔だった。 「俺そんな酷いこと言ったか。ごめん」 「分からないくせに、自分が間違ったって、謝るんだね」 「間違ってないと俺は思ってるけど、でも、自分があってると思ってることが間違ってることだってあるし、それでお前を、傷つけたんだったら、謝る」 大真面目な顔をしてそんなことを言う。五島が唇の端で言い返す。 「そんなこと知らないよ」 「お前じゃなくて、俺はそうするんだよ」 幼稚で愚直だと五島は笑いたかった。けれど、どうしても、閉じても溢れてくる涙のせいで、言葉にはできなかった。 どうして、日高は、日高なんだろう。五島は日高に瞼の下を無理矢理伸ばした袖で擦られながら、ぼんやり考えていた。日高は五島が、痛いと言っても聞いてくれなかった。それが、どうしようもなく、心地よかった。日高は、こういう人間だと改めて感じたような、気がしたのだ。 痛いなあ、と五島の唇が動いたのを、日高は見た。涙はもう流れていなくて、拭くことも本当は必要なかったのだけれど、日高は、どうしても、五島の顔を見ることができなくて、彼の目もとをそっと隠した。手のひらの下に、五島の目があって、それが当たり前のように自分を映すのが、少しだけ怖いと思った。わけの分からない憎悪と、立ち入ってはいけない場所に入ってしまったことの罪悪感が喉の奥で渦巻いている。ごめん、と唇だけ動かした。何だか自分の中の五島がいっそう脆くなってしまったみたいだった。 タイトル:深爪 ▽ 五島が泣き虫になってしまってあれれ ← |