※宮地さんが京都の大学に行く捏造設定


京都は修学旅行以来だった。町並みは都会的で人も多いが、やはり、東京とはどこか違う。今更になって宮地はいきなり心細くなった。右を見ても左を見ても知らない顔、知らない街並み。どうしようもなく不安になってきて、宮地は急ぎ足で交差点を渡った。人にぶつかりそうになるのに嫌気がさすのを抑えながら歩いていると、後ろから、おーい、と、叫ぶ声が聞こえる。ゴミゴミした人の波の中でその声だけが唯一真っ直ぐうるさく、人間味を帯びていて、そして、じわりと思い出される、どこか、聞いたことのあるそれだった。

「宮地さん、でしょ!」

振り返るとやっぱり、見たことのある顔だった。はやま、と、思わず口が動く。大きな猫目が楽しそうに瞬いて宮地を映す。驚いて思わず止めた脚を思い出したようにやっと動かした。当然のように葉山が並ぶ。

「宮地さん、何してんの、こんなとこで」
「買い物だけど……。お前こそ、何してんだよ」
「俺も買い物―!新しいバッシュ買いにきた!」

今からショップ行くんだよ、と、葉山が嬉しそうに笑う。宮地はバスケしか考えてなさそうな葉山の顔をぼんやり見てから、自分はベッドを買いに行くと言った。

「そっか、宮地さんは大学生だもんね。京都の大学?」
「おう」
「大学に行ってもバスケはするんでしょ?」

宮地は問ってきた葉山の顔を見る。そこにあったのは、無邪気で、明るい、ただの笑顔だった。試合で当たったときも思っていたことだが、葉山は他人を卑下しない。純粋に楽しいからバスケをするし、純粋に聞きたいから今の質問をしたのだろう。それが分かっているから腹を立てるのも馬鹿らしくて宮地は短く、しない、とだけ返した。一瞬遅れてから、葉山が瞬きをする。なんで、と、唇の端から零れたような静かな言葉は彼らしくなく、震えていた。

「しないの……?」
「しねえよ。高校で散々やったし」
「で、でもさ、俺とやったのは、ちょっとじゃん」
「俺はお前と当たるためだけにバスケしてたわけじゃねえ」

葉山は、でもッ、と言ってから言葉に詰まった。宮地の言っていることは正しい。言いたいことは葉山でも分かる。宮地のバスケはもう終わったのだ。高校三年間をかけたそれは、もう、終わって、返ってくることはないのだ。けれど葉山は諦めきれなかった。

「お、俺、宮地さんと、またバスケ、やりたいんだ」
「はぁ?」

呆れを隠さない宮地の顔を見て、葉山は泣きそうになりながら言葉を吐き出す。

「俺、宮地さんに抜かれてから、あれから、もう、誰にも抜かれてない、から」

切羽詰まったような顔をする葉山がおかしかった。宮地が葉山を抜いたのは、あの試合の、あの一回だけだ。本当の、たった一度だけ。宮地が諦めたあの日、葉山は決して宮地の終わりを諦めていなかったのだと思うと、息が詰まった。宮地は喉の奥に何か詰まってしまったんじゃないかと錯覚する。それほど言葉が出てこなかった。焼けるように喉の奥が痛くて、まるで、涙をこらえて、でも、溢れた、あのときみたいに。



凛さんへ贈ります



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