眠っている緑間の目の下をぐりんとなぞる。眼球の形を辿るように、ゆっくりと指を動かしてたまに少し、ついたりして。けれど、麻酔薬を打たれ、透明な管で機械に繋がれた緑間は一向に反応を示さなかった。それもそうだ、彼は現在進行形で意識不明、自分の声など届きはしないし、あのときのように、一挙一動に目を向けてくれることはないのだ。

ああ、どうしてだろうね、緑間。

聞こえていないのをいいことに、高尾は好き勝手に唇を持ち上げる。彼の瞼から指を外して、包帯の巻かれていない左手を虚しく撫でる。ああ、これが彼の手か。あのときのような重みも、温かさも感じられない。過去を懐かしむだけの自分に反吐が出そうだよと笑って見せても、彼は無言だった。

「本当、酷いよ、お前」
「俺が、本当に、俺がさ、どうして」

言葉にならない単語の羅列に自分の喉を締めあげたくなる。ピッピと無機質な機械の奏でる音だけでしか、緑間が生きているということは証明されないのだなあとふっと思ってしまって、駄目だと眼球の奥が熱くなる。

「緑間、俺、お前のこと」

口は開くのに、声が出なかった。
すきだと伝えるのに、こんなにも近くにいるのに、届かなかった。



ぎゅうと高尾が目を閉じるのとほとんど同時に、コンコンとノックがした。失礼しますと律儀に頭を下げる若手のナースに高尾は濡れた両目を拭い、すんませんと椅子から立ち上がった。定期的に緑間の脈を測ったり点滴を調節したりと忙しい彼女の後ろに下がる。放した緑間の手がどうしようもなく、無機質に思えた。

あッとナースが声をあげた。どうしたのかと思って肩を揺らすと、医者を呼んできますッと切羽詰まったような言葉を吐いて走ってしまった。高尾も急いでベッドに駆け寄る。緑間が、薄ら、瞼を持ち上げていて。
緑色の双眸が一層白くなった肌の隙間に覗いていた。

「みど、り、ま」

パクパクと緑間の人工呼吸器に覆われた口元が動く。何度も見てきた、口の動きは確かに、たかおと自分の名を吐き出していた。もう駄目だと涙が溢れる。さっき止まったばっかりなんだぜと高尾は微笑んだ。緑間はその顔に同じようにばかめと呟いて美しく笑った。


タイトル:ぱっつん



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