これの続き

※一人称が名前のない女の子
※設定がややこしいとかいうレベルじゃなくぶっ飛んでいる
※恐らく高緑が前世不幸だった
※以上のことがのめる方のみ、お進みください





病室は白。世界は異物を拒んでいた。実に分かり易く、視覚的に伝えてくるそれにわたしは分かり難く目を細める。その色は、入院患者というものをすべてすべて、不健康に見せる。まあ、病院にいる限り、9割は不健康だから当然なのだけれど。
大学病院に勤め、そこのカビ臭い人間関係に吐気を催してやめたのは和成が高校に入学するつい2か月前だ。それからコンビニと本屋、古本屋のみっつのバイトを掛け持ちして家に金を入れつつ過ごしている。母さんにはせっかく看護師免許をとったのに云々とかなり渋られたが、まあ元々合わなかったのだ、ひとのために自分が辛い思いをしてまでなにかするなんていう、そういうことが。(そう言えば、病院を辞めるとき和成も悲しそうな顔をしていたなあ)
だから、わたしがいま2週間前に掴んだ古本屋のバイト業務の傍ら、大学生くらいの青年が医療コーナーで本を見詰めているのを、なんとも言えない気持ちで見ていた。彼がそこにいることに特に感想は出てこない。ただ、自分の内側が些細な葛藤をべちべち繰り返しているのが鬱陶しいのだ。
青年の白い指が本の冊子を撫でるのを見ながら、最近のわたしがどうしたのだろうなあ、なんて妙な風に感傷に浸り出す。和成のために、なにかしたい。なんてね、思うときが来るとは。
不意に、ポーン、という音が自動ドアから放たれて、お客様の来店を知らせる。

「いらっさいやーせー」

お客様(女子高生おひとり)は小さくお辞儀をして少年漫画のコーナーに行った。礼儀正しい子、に見える。わたしもあれくらいしたほうがいいかな、やっぱ店員だし。彼女の後姿を追いかけてぼーっとしていると、レジの前から「あの」という声が聞こえた。急いで首をぐるりする。

「申し訳ありません。えー、450円です。はい」

お客様を待たせるなど、不覚。反省。わたしでも知っている有名作者、黒子テツヤの本を安っぽいビニール袋に入れ、前を見る。きっちり450円、それを持っていたのはさっき医療コーナーに立っていた大学生だった。最終的に文庫本かよ、と思ったが勿論口には出さない。レシートとトレードして「ありあしたー」と頭を下げる。彼は去っていった。
刹那合った目が、なぜかとても泣きそうだと見えたのは、わたしの目の錯覚か。それとも。わたしは自分の目をぐりぐりと解しながらゆっくり息を吐いた。ちらりと見えた壁時計の針が午後7時を示していた。



泣きそうな母親の顔は、泣いた和成に、似ていた。わたしも、こんな泣きっ面を晒すときがいつか、なんて。そんなことを考えながら母さんの話を聞いていた。

「最近和成の様子がおかしいのよね…、なにに対してもやる気がないっていうか。冗談だと思うんだけど、学校やめてもいいとか、言いだしちゃって…」
「なにそれ。絶対冗談だって。わたしに感化されちゃった結果だったらごめんね」

軽く笑う。眉間に皺を寄せまだなにか言い足りなげな母さんの言葉をリビングから抜け出すことにより回避する。母さんは可愛くて素敵な母親だけど、やはりというかなんというか、普通にお小言がウザイ。どこの母親もだと思うし、言わないほうが問題あるのかもしれないけれど。
取り敢えず母さんのお小言の現況を見に行かねば。和成の部屋のドアをノックす「入れば?」る前に扉の奥から声がした。お前は超能力者か、と言ったら前まではもっと、と言いかけてやめていた。

「お邪魔しますねー」
「なんか用? まあ、どうせ母さんだろうけど」
「分かってるなら母さんを困らせるなよ…、なに、なんで落ち込んでんの」
「……落ち込んでるように見える?」
「無気力に見える」
「そっちのが正解」

ベッドに仰向けだった和成はうーとかなんとか言いながら起き上って腕を天上に突き上げる。わたしは後ろ手で扉を閉めながら椅子に座る。「【しんちゃん】絡みですか」そう言うと和成の視線は険しくなる。悪いか、と声には出さず訴えられるので「悪かないけど、」と返した。続ける。

「駄目だよ」
「……、」
「ほんとは分かってるくせに。アンタ、まるで【しんちゃん】しか生きる目的がないみたい」
「……、おま」「お姉ちゃん」「…姉ちゃんには、分かんねえよ」

そう言った和成の目が、黒子テツヤの本を買ってったあのひとに、ほんの、ほんのほんのほんの、ほんのすこしだけ、似ていた。ような気がした。
と、自分に言い訳しながら我が弟を見ていた。


タイトル:深爪



タイトルは高尾くんの気持ちだったりなかったり。
長編にしたいですが…ぐぬぬ、終わらないこの感じ…。前作にてメールをいただいたので、長編にならないうちはこちらにちょまちょま置かせていただきます…!
時間を割いてメールをくださった方々、ありがとうございました!とてもうれしかったです!




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