※年齢操作あり ふたりは手を繋ぐこともなく、ただそこに在ることがすべてだと言うように前を見据える。触れそうで触れない距離感の中で青春をはじめ、そして終え、中間は割愛される程度に、主役に圧迫されていた。専らバスケ馬鹿だったから、気付かない振りはそれほど難しいことではなかった。ただ苦しかっただけだ、と高尾は言う。笑顔で。 「苦しかったんだよ」 お前は知らなかったかもしれねえけど、俺は。そこまで言ってまた口を閉じる。あの日よりすこし草臥れたような口調は緑間を一気に現実へ引き戻した。そこは街灯の明かりが眩しいネオン輝く都会の街から僅かに外れた住宅地だった。寂しい街灯の光で見えた高尾は、当然のように昔とは違った。すこし伸びた髪はいつかの遠い、あの日より僅かに明るく染めたのだと一目で分かったし、ピアスもしているのか、茶がかかった髪の隙間から街灯の明かりで反射した薄緑が見えた。 緑間が黙ったままなのを目に高尾はしまったというような顔をして地面を靴の裏で擦る。 「…ごめん。折角久しぶりに会ったのに、いきなりこんなこと言って」 「いや、」 なにを言うでもなくただ口を突いたのは淡い否定だった。緑間のそれに高尾は目を丸くしてなにかを溜めたように、どこか安堵したように「真ちゃんが俺なんかを気遣うなんて」と笑った。俺なんか、という言葉に「違うだろう」と言えば、しかし高尾は伝わっていなかったのか首を傾げるだけだった。街灯が寂しく高尾の作り笑いを照らした。 あの頃、へらりと口元を歪め、頬の筋肉を吊りあげて、目を細めるそれをひとは笑顔と呼び、ひとりはそれが得意で、もうひとりはそれが下手だった。いまは、なんて愚問を投げかければひとりはそっと綺麗な笑顔を構成して見せる。もうひとりは、儚く泣きそうな顔でやっと微笑む。立場の逆転など、あってはならなかったのに。 (俺が、真ちゃんを笑わせたかったのに) (やっとお前と同じように、笑えるようになったのに) タイトル:彼女の為に泣いた ▽ 高校卒業とともに離れた高尾と緑間が不意の偶然に出逢った話。高尾は真ちゃんと離れて上手に笑えなくなってしまったのに、緑間は表面上(昔の)高尾のように笑えるようになっていて…、みたいな。わたしはすれ違いがすきなのかそうか。 文章にも出しましたが、高尾のピアスは緑色です。実は真ちゃんより高尾ちゃんのほうが女々しいんじゃないかとわたしは思っています(真顔) 「彼女」=「時の流れ」 「主役」=「バスケ」 ← |