※紫原→赤司←黒子風味


赤司は戸惑いの欠片もなく容赦もなく、表情を崩さぬまま王将をパチリと置いた。「どうだい?」問われた緑間がしばらく将棋盤を睨んだ後溜息を吐いたことで、黒子はやっとこれで詰んだのだと分かった。「緑間くんの負けですか」「この僕が負けると思うか?」淡々と、しかし満足したというように赤司が目を細めた。
未だ盤上を睨む緑間に紫原が「あんね、ミドチン」と声をかける。だれより長い指先が怠惰をのせながら盤の目をなぞる。「みっつ前にミドチンがそれ、なんだっけきんしょー? を動かしたのが駄目だったんだよー」とんとん、指先でその場所を叩きながら言う。ああ、と悔しさを混ぜながら瞠目する緑間に、若干追い打ちをかけるように「それとと金を動かしたのはこちらにチャンスをくれたのと同然だったな」と赤司が付け足すと、彼は黙って盤を睨むことすらやめた。対戦相手を睨むことにシフトを変えた緑間に習い、黒子は自分より随分上にある紫原の頭を見上げる。

「紫原くん、将棋分かるんですか」
「んー、赤ちんとミドチン見てたらちょっとはねー」

黒子ははぁ、と軽く感嘆を表してみるが、紫原の視線は赤司と緑間のほうに向いている。まるで黒子など眼中にないとでも言うように。

「赤ちん、そろそろ帰ろうよー」

紫原の言葉によって視線を交わしていた(緑間に至っては睨んでいた)ふたりが揃って壁に掛かっている時計を見上げた。「もう7時か」席を立った赤司と緑間が将棋のセットを片付け始める。それを黒子と紫原はなにをするでもなく見ていた。
王将がころりと落ち、紫原と黒子の間に転がった。先に気付いたのは紫原で、拾ったのは黒子だった。そっとしゃがんで、ぎゅう、と握り締めてスラックスのポケットに入れる。紫原は一部始終を見ていて、でもなにも言わなかった。そんなガラクタ、どうでもいいと言わんばかりに。

「帰ろうか、敦」
「はあい」

じゃーねー、ミドチン、黒ちん。また明日。紫原と赤司が出ていく。部室の扉が閉まるまで、黒子はその背中を見ていた。×ね×ね。ぱくぱくと透明な言葉を吐き出すが、色のついていないそれはだれに聞こえるわけもなくただ空気に溶けていった。×ね。
黙ったままの黒子の肩を緑間が軽く叩く。

「黒子、お前ももう出るのだよ。鍵を閉められない」



校門を出るとすこし遠くに、紫原の大きな背中とふたまわりかそれ以上小さな赤司の背中が見える。不格好にも手が繋がれたその姿に思わず目を閉じる。両耳も抑えると世界はブラックアウトされた。なにも見えない。なにも、聞こえない。なにも、感じられなくなりたい。


タイトル:彼女の為に泣いた



友達が黒赤書いてっていうからー頑張ったんですけどー難しいとかいうレヴェルじゃなくてー……こういう形に落ちつきましたー…へへ
わたしの中で、紫原くんは余裕のある感じで黒子を苛立たせるという図でしかない。



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