(6)
――……。
結局、
俺は、自身の決め球であるストレートを投げた。 渾身の一球。 今思い返しても、現状の俺は、あれ以上の球を投げることはできなかったと思う。
結果、ヤツのバットは、俺の球をバックヤードまで運んだ。 完敗だった。
「ごめんな」
試合が終わったあと、チームメイトに頭を下げる。 でも、みんなは俺を責めなかった。
……俺の選択は間違っていなかった。 俺たちの、実力不足だったんだ。
俺たちは、全国大会での再戦と勝利を、チームメイトと誓った。
「おつかれさま!」
試合のあと、グラウンドに残って、1人今日の試合の反省をしていた俺は、由紀の声に振り返る。
「……ん。ごめんな?」
「え……?」
「応援、してくれたのにさ。負けちまって……」
その言葉を聞いて、由紀は少しきょとんとしたあと、ぐっと手を握った。
「あたし、言ったでしょ?キャプテンがどんな選択をしても、それは間違っていないって。打たれちゃったなら、力がちょっと足りなかったんだよ。次は、絶対勝とう!」
「ん。だな!」
公式の大会までは、まだ少し時間がある。 それまでに、リベンジ、果たしてやる!
……つか。 今、俺の耳が間違ってないなら……。
「由紀?何でまたキャプテンに戻ってんの?」
「え?……あ」
由紀は、急にあわてだして、自分の口を両手で塞いだ。 そして、俺を見上げてくる。
「名前、呼んでほしいんだけどな」
「……だ、だって……」
「だって?」
……まさか、俺だけキャプテンと呼ぶことに、なにか理由があるのか? そう思って、由紀の顔を見ると、見る見るうちに真っ赤になった。
「……なんで、俺だけ名前で呼んでくれないの?」
「だって……あたしなんかが……呼んでいいのかなって……」
へ?
「な、なんで?」
「……だって…」
そう言ったきり、由紀はまたうつむいてしまう。 ……なんか、よくわかんないけど……。
「由紀?……俺、みんなと同じように、名前で呼んでもらいたい」
「……ゆ、悠斗くん」
「はい」
堪忍して名前を呼んでくれた由紀。 うれしくて返事をすると、由紀は照れくさそうに笑った。 ……つか、ほかの部員は「(苗字)くん」だ。俺のが、急に一歩リードしたのかもしれない。
「……じゃあ、合宿所に戻ろう?そろそろご飯だって!」
「ああ。……分かった」
グローブやバットの一式を手にとって、俺は立ち上がった。
「あ、あと!」
立ち上がった瞬間、由紀が俺に携帯を差し出す。
「あの、携帯……鳴ってたみたいだから、持ってきた!」
手渡された俺の携帯電話。 どうせお袋かカナだろうと思って開くと、受信ボックスには【大西つばさ】の文字があった。
「なんだあ?」
珍しいなと思ってメールを開くと、そこに書かれていたのは……
Receive Mail [001/500] Date 16:58 From 大西つばさ  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 星屑ロンリネス?
「ぶはっ。アイツふざけんな!」
思わず噴出す。 それを見て、由紀が不思議そうに俺の顔を覗き込んだ。
「どしたの…?」
「ん?……ああ。何でもない」
「だ、誰から?」
「んー?つばさ」
内容は、言えるわけないよな。 さりげなく、由紀の話なんだから。
「ふ、うん……。仲、良いんだね?」
「まあ、な。小学生のころからの付き合いだし」
今はなんともないけど、ファーストキスの相手だしな。 ……まあ、これは言わないでおくけど。
そう言うと、由紀は軽く唇を噛んだあと、俺に笑いかけた。 ……その顔を見た瞬間、どうにも不思議な気持ちになる。
「ゆ、由紀?どうした……?」
「な、なんでもない!」
……泣きそうに見えたのは、俺の気のせいだろうか? まあ……気のせいなんだろうけど……。
「みんな待ってるよ!行こう、キャプテン!」
「……あれ?」
あれれ?戻ってない?
そう聞こうと思ったけど、由紀はくるりと合宿所のほうを振り向いて、駆け出してしまった。
「ゆ、由紀!?」
「みんな、待ってるから……早く!」
軽くこっちを振り向いただけで、駆けていってしまう。 俺も、慌ててあとを追った。
つばさの、ばか。 言われなくても……絶対勝って、俺はアイツに告白するよ。 名前はなかなか呼んでもらえないし、つばさの言う「星屑ロンリネス」にはまだまだ遠そうだけど……。 こっちも、なんとか頑張る。
だから、俺のことはいいから……お前は、葵の気持ちを考えてやれ? 番外編でまで、心配させんじゃねーよ、ばか。
第一部*完
|
|